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やってはいけない会社の人事 第7回

「有給と特別休暇を同時取得」「結婚休暇の重複」—
モンスター社員の休暇制度乱用を誘発する就業規則の落とし穴

[ 河西知一(特定社会保険労務士、トムズ・コンサルタント株式会社 代表取締役社長)、小宮弘子(特定社会保険労務士、トムズ・コンサルタント株式会社 取締役)]

結婚休暇や慶弔休暇のような特別休暇のほとんどは、労働法で義務付けられた休暇ではありません。しかし、実際には特別休暇がまったくない会社などほとんどないでしょう。特別休暇は会社の意思として必要ですが、問題は取得の方法です。最近は、こうした休暇制度を悪用するモンスター社員が増えてきているようです。

事例1 某アパレル会社のケース

 管理部門にいた女性Aさんは、会社に退職願を出し、次の日から24日間の有給消化期間に入っていました。ところが有給休暇の残日数処理期間中にAさんは結婚し、なんと今度は結婚休暇の取得を申請してきたのです。
 有給休暇の残日数の消化期間中に特別休暇である結婚休暇も取得したAさんの退職日は、さらに後ろにずれることになりました。

事例2 某食品販売会社のケース

 最近転職してきた女性Bさんは、会社に結婚休暇を申請しました。会社は承認し、規定に基づいて休暇を与えたのですが、後日、なんとBさんが入籍したのは前職在籍中だったことが発覚したのです。しかも、Bさんを問いただしたところ、前職でも結婚休暇を取得していました。

退職時の有給休暇長期消化は望ましくない

146632_200s Aさんの事例についてですが、Aさんの会社の就業規則では、退社日の14日前までに退社の意思表示をしなければならないことになっていました。Aさんは規則で定められているよりも早めに退社の意思表示をしたことになるので、確かに規程違反ではありません。
 
 しかし、会社が14日前までに退社の意思表示を求めているのは、業務によっては引き継ぎが必要であったり、新たな採用が必要であったりするからに他なりません。
 
 Aさんは、このような就業規則の死角を突き、自分にだけ有利に解釈したのです。明日から来ないと宣言できる時点で彼女はモンスター社員なのかもしれません。

ケース1 の対策:休暇の運用ルールをきちんと定める

 次に、有給休暇と特別休暇の同時取得についてですが、土曜日、日曜日、祭日はもともと出勤する義務はありませんから、7日間の特別休暇は労使双方に影響のあるものです。

 しかし、規則の決め方によっては、会社は特別休暇の申請を拒否できないことがあります。

 このような問題に対処するためには、就業規則にあらかじめ「特別休暇は有給休暇の長期消化期間には併せて取得することはできない」と明記しておきます。

 そもそも特別休暇と有給休暇を併せて取得する場合には、人事部の承認を必要とするなど運用ルールをきちんと定めておくことが必要です。

ケース2 の対策:権利発生の時期と付与の時期を明確にする

 次に、Bさんの事例についてですが、Bさんの会社の就業規則では、特別休暇制度はあったものの、入籍時期や付与する時期についての条件までは詳しく明記されていませんでした。

 これもやはり、明文化されていない以上、就業規則違反とはいえなくなります。

 このような事態を防ぐためにも、就業規則に「結婚休暇は当社在籍中の入籍の後に付与する」などとはっきりと明記しておき、権利発生の時期と付与の時期を明確にしておかなければなりません。

ここがポイント!休暇制度の乱用防止に効果的な記載例

●休暇の取得方法について

 特別休暇が複数日になる場合には、その取得を「連続して取得すること」と規定します。たとえば7日の休暇取得権利を今週2日、来週3日、再来週2日というふうに、分割しては取得できないということです。

●年次有給休暇と特別休暇の併用について

 退職時に社員が年次有給休暇を消化している場合、その期間中に特別休暇は取得できないことを規定します。

 モンスター社員は就業規則の死角を突いてきます。「有給休暇と特別休暇は原則として併せて申請できない」としておくことが賢明です。

●特別休暇の取得時期について

 特別休暇を何の考慮もなく設け、いつでも取得できるとなると一考を要します。特に他の休職期間や産前産後休暇期間、育児介護休業期間には特別休暇は取得できないのが普通です。これらの期間でも取得できるとなると、一定の無給期間中に断片的に有給期間が発生することになり、現実的ではありません。

 しかし、現状ではどの会社の就業規則にもなかなかここまで記載できていないのです。ぜひ、次に就業規則を見直す機会には「特別休暇は、他の休職期間、育児介護休業期間、産前産後休業期間中には取得できない」というような表現を追加してください。

特別休暇はあくまで「特別」—取得ルールは必ず追記しよう

 結婚休暇などの慶弔休暇は、制度がなければ違法というわけではありません。
 しかし多くの会社では、通常の社会生活の中で起こりえる慶弔においては、「特別休暇」という制度を設けて対応しています。

 ところが、この慶弔休暇を悪用しようとするモンスター社員が増加しています。就業規則の穴をついて自分勝手にふるまうモンスター社員を野放しにしておけば、結局、迷惑をこうむるのは真面目に仕事をしている他の社員たちです。

 そうさせないためにも、想定される一定のルールをきちんと就業規則に追記すべきです。

<就業規則記載例>

(有給休暇)
第○○条 入社後6か月を経過し、所定労働日の8割以上出勤した社員には以下の有給休暇を付与する。


*有給休暇の取得と特別休暇を併せて申請する場合には、別途人事部の承認を得ること。

*退職日が決定し、有給休暇の長期消化期間中には、他の特別休暇の申請はできない。
*休職期間中は原則として特別休暇の申請はできない。

▼連載「やってはいけない会社の人事」
著者 : 河西知一(特定社会保険労務士、トムズ・コンサルタント株式会社 代表取締役社長) 大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
http://www.tomscons.co.jp/
著者 : 小宮弘子(特定社会保険労務士、トムズ・コンサルタント株式会社 取締役) 都市銀行にて外為業務、人事総務業務に従事し、資格取得後、トムズ・コンサルタントに入社。 「人」に関するスペシャリストとして、分野を問わずにマルチに活躍。労務相談業務を中心に人事制度改定や就業規則改定等、幅広く活躍。その他セミナー講師等としても活躍。著書に『法律家のための年金・保険』(新日本法規)
http://www.tomscons.co.jp/
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