これからの人事は、時代の流れや経済的環境の変化、ときには国際情勢なども加味しながら作業のすべてを吟味して進めなければなりません。
一番避けなければならない対応は、「今までやってきたことだから」と何も考慮せずこれまでの制度を運用することです。
今までやってきたことであっても、「もっと良い方法があるのではないか」さらには「やめてしまってもいいのではないか」と立ち止まらなければならないのです。
「今年も社員旅行をやります」、その理由は「今までやってきたことだから」では、これからの人事は失格なのです。
ファイリングひとつとっても、決して使わない資料に時間をかけて丁寧にファイルしているのを見たことがあります。
二度と使わない、二度と見ないものであれば期間だけ注意してファイリングをすればよく、時間のかかるファイリング方法は見直すべきです。
こんな目標管理制度は役に立たない
多くの企業に目標管理制度が導入されて久しいところです。
目標によるマネジメントであるから、Management by Objectives(MBO)と称されて、給与額、あるいは賞与額決定の最重要要素であると位置付けていることも多いようです。
企業は、個々の社員の成果や業績を積み重ねて成り立つものであるところから、“個々の目標管理を徹底することは、業績に大きく反映するに違いない”という考え方は、一見すると正しい手法のように思えます。
さらに“目標面接を通じて、リーダーと部員とのコミュニケーション能力も増大”すると言われており、いいことだらけです。
しかし、現実はそのようにはなっていない例が多いのです。
全社業績は、結果として個人の成果の積み上げではありますが、全社目標は、個人の目標の積み上げであってはならないのです。会社は年度計画やその前提となる中長期計画をすでに持っています。したがって各部署にやってもらうこともおのずと決まっているのです。
思考停止の罠⑴:目標管理のために目標をつくる
導入当初であればともかく、目標管理が成熟してくると目標そのものの設定が困難になるか、達成可能な数値目標を探ることが上手な人間が現れてきます。
会社によっては、社会情勢や現状を無視して、“達成できるわけのない数値”を目標と称して与え、結局は誰も注目しないし、達成意欲が湧かない制度となってしまうこともあるようです。
また、よくある事例としては、昨年度目標の焼き直しパターンです。こうなると目標管理制度はほぼ機能しなくなります。なぜなら本来取り組むべき重要な業務が、目標とならないからです。
思考停止の罠⑵:目標面接にムダに時間をかける
これがまた難しい問題です。個人としては直接給与額に影響があるなら、できる限り達成可能な目標を設定したいものです。
これに対して上長は、会社側として簡単に達成できる目標を設定したとは思われたくないので、かなりきつめの目標を示すことになります。
話し合いは数度に及び、双方歩み寄りながら、ようやく合意目標を設定する…。
果たしてこんなことに意味があるのでしょうか。3年目には上長は疲れきってしまい、目標面接の直前には精神疾患に陥る人も出てきます。
どの本にも“個々との目標面接を徹底して実施する”などと記載されているために、本来の業務をそっちのけで目標面接に取り組む会社もありますが、このことがいかにナンセンスであるかを見直す時期です。
目標管理の本来の目的は人事評価のモノサシ
そもそも、評価制度には目標管理制度の考え方が底流にあります。
一人の人間を「優秀だから他の者よりも昇給額を多くしよう」という発想には、暗黙のうちに個々の目標や課題などを評価者なり会社なりが、理解していたことになります。
目標管理は今後も必要となるに違いありません。
しかし、目標設定に本人や上長が押しつぶされるような制度であってはいけません。
観察し評価することが大切
評価者は部下を観察しなければなりません。当たり前のようですが、昨今の会社ではこの当たり前のことができていないのです。
多くの評価者は、自分のことで精一杯で他人のことまで構っていられない、という心境で毎日を過ごしています。このことを教育さえしていない会社にも問題があります。
評価は観察から始まることをもう一度思い出すべきです。
- ▼連載「やってはいけない会社の人事」