妊産婦に対して必要な配慮とは
妊産婦について、特別な措置を取る必要があるか?
通勤ラッシュによる苦痛はつわりの悪化や流産・早産等につながるおそれがあります。医師から通勤緩和や時差出勤、勤務時間の短縮等の指導を受けた場合は、指導事項を守れるように事業主は必要な措置を講じなければなりません(男女雇用機会均等法 13 条 1 項)。
また、医師から休憩時間の延長や回数の増加、休業等の指導があったときも同様です(図表2)。
その他、立ち作業に従事する妊娠中の女性労働者のそばに椅子を置くなど、休憩が取りやすい工夫をすることも検討してください。
医師の指導内容が事業主に適切に伝えられるようにするため、「母性健康管理指導事項連絡カード」(以下、「母健連絡カード」といいます)の利用をお勧めします。厚生労働省ホームページからダウンロードが可能です。
使い方としては、まず母健連絡カードを事前に女性労働者に渡しておきます。
健康診査等の結果、通勤緩和や勤務時間の短縮等の措置が必要とされる程度の指導事項がある場合は、医師に必要な事項を母健連絡カードに記入してもらい、それを会社へ提出させます。
こうすることで、指導内容が的確に伝達され、会社が講ずべき措置の内容が明確になります。
このカードの提出がない場合でも、女性労働者本人が申し出てその内容等が明らかであれば、事業主は必要な措置を講じる必要があります。
内容が不明確な場合は、女性労働者を介して医師と連絡を取り、判断を求めて対応するようにしましょう。
また、企業内の産業保健スタッフに相談して、必要な措置を決める方法もあります。
妊産婦に対する取扱いで、禁止事項はあるか?
女性労働者が婚姻、妊娠、出産したことや、産前・産後休業を請求したこと等を理由とする解雇その他の不利益取扱いは禁止されています(男女雇用機会均等法9条)。
たとえば、次のような取扱いを行なった場合は不利益取扱いとみなされるので、十分注意してください。
- 期間雇用者について、契約の更新をしないこと
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、その回数を引き下げること
- 退職の強要、または正社員をパートタイマー等の非正規社員とするような労働契約内容の変更を強要すること
- 降格させること
- 就業環境を悪化させること
- 不利益な自宅待機を命ずること
- 減給し、または賞与等において不利益な算定を行なうこと
- 昇進・昇給の人事考課において、不利益な算定を行なうこと
- 派遣労働者について、派遣先がその派遣労働者による役務の提供を拒むこと
産前・産後休業の請求は、パートタイマーの場合も認めなければならないか?
女性労働者が妊娠し、出産予定日前 6 週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)について女性労働者が請求した場合は、就業させることはできません。これは、パートタイマーや期間雇用者など、雇用形態に関係なく請求に応じる必要があります。
産後については、基本的に出産から 8 週間について就業させることはできませんが、6 週間を経過した後は、労働者本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは差し支えありません。これらをまとめて産前・産後休業といい、労働基準法 65 条 1 ~ 2 項で定められています。
産休中の賃金は無給でも構いませんが、その間の生活保障として、健康保険から「出産手当金」の支給制度があります。健康保険の被保険者であれば、パートタイマーも出産手当金を請求することができます。
1か月単位の変形労働時間制を採用しているが、妊産婦に対する規制はあるか?
変形労働時間制とは、一定の要件のもと、特定の週または日において、法定労働時間を超えて労働させることができる制度をいいます。
この制度を採用している職場であっても、妊産婦が請求したときは、法定労働時間(1日8時間・1週 40 時間)を超えて労働させることはできません(労働基準法 66 条 1 項)。あくまでも本人からの請求がベースとなりますので、請求がなければ通常どおりの就業が可能です。
なお、同じ変形労働時間制であっても、フレックスタイム制については、始業や終業の時刻を労働者本人に委ねているため、特に制限はありません。
また、妊産婦が請求した場合には、36 協定があっても時間外労働、休日労働、または深夜業をさせることはできません(労働基準法 66 条 2 ~ 3 項)。
休憩回数の増加とは、たとえば昼休憩の1時間を2回に分ける方法でも可能か?
医師から指導された休憩時間の延長や回数の増加については、労働基準法 34 条に基づくいわゆる通常の休憩時間とは異なり、母性健康管理の観点から取得させる休憩時間を意味します。
つまり、通常の休憩時間を確保したうえで、さらに必要に応じて回数や時間を増やす必要があります。したがって、昼休みを2分割する方法は認められません。
なお、1 歳未満の子を育てる女性労働者は、労働基準法34条に基づく休憩時間および母性健康管理上の措置としての休憩時間とは別に、1 日 2 回各々少なくとも 30 分の「育児時間」を請求することができます(労働基準法 67 条)。
通常の休憩時間は、労働時間の途中に与えることになっていますが、この育児時間はそうした規定がないため、たとえば、終業時刻の1時間前から取得することも可能です。