管理職クラスにも増える「介護離職」予備軍
親や配偶者の介護で、貴重な戦力である社員が離職する、いわゆる「介護離職」がクローズアップされるようになりました。少子高齢化や核家族化の影響もあり、働き盛りの40代~50代の社員、とくに男性が親の介護で職場を去るケースも増えています。
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2013年)によれば、介護について「勤務先に相談する」と答えた人は、わずか7.6%でした。とくに男性社員にあっては「介護をしていることが会社に知られたら、人事評価や昇進に影響するのではないか」と不安を感じる人も少なくありません。
背景には、会社に対する忠誠心の表明が「休まない」「長時間労働もやむを得ない」ことだと誤解し、あるいは職場の忙しい状況を理解すればこそ、「個人的な相談などできない」と思い込んでいることなどがあるようです。
そこで介護離職を防ぐにはまず、「会社が目指すのは社員が働き続けられること」であって、「仕事と介護の両立について必要な支援を行う」といった方針を明確にしていくことが大切です。そのうえで、仕事と介護の両立に対するニーズの把握(社員全般と個別の事情)に努めましょう。
ニーズを把握するには、アンケートやヒアリングを実施することが一般的です。
会社や周囲の支援を得られず、1人で思い悩み、無理をしながらもかろうじて仕事を続けている介護離職予備軍は、確実に増えています。「隠れ介護」が続けば、社員自身が身体を壊してしまうかも知れません。
大切な人材を守るためにも、会社として、早めに実態を把握しておくべきです。
社員が抱える介護不安・課題を「見える化」する
介護に関する実態調査を行う際は、現在の状況を尋ねるだけでなく、社員が抱える不安や課題を「見える化」するため、必要な支援や制度、これから介護に直面する可能性などを含めた問いを設けるとよいでしょう。
※ここでの職場は会社全体ではありません。管理職(課長職以上)は、あなたが管理している範囲、一般社員は、あなたの上司が管理している範囲を指します。
【あなたの介護に関する状況についてお尋ねします】
Q1:現在、介護をしていますか
Q2:あなたの介護を要する方はどなたですか
(自分または配偶者の父、母、兄弟姉妹、祖父母、その他の親族)
Q3:あなたの介護を要する方はどちらにいらっしゃいますか
(同居、施設など、複数人を介護している場合は、それぞれの状況)
Q4:Q3で介護する場所は自宅からどの程度離れていますか
Q5:仕事と介護を両立していく中で、支障となっていることや不安に感じていることはありますか
Q6:仕事を続けるために利用したい制度・支援はありますか
Q7:自分が介護に関わっていること、将来関わる可能性があることなど、職場の誰かに相談したことはありますか
Q8:今後5年以内に、介護に関わる可能性はありますか
Q9:介護の可能性がある場合、どんな不安がありますか
Q10:介護に直面した場合、現在の職場で業務を続けられそうですか
Q11:介護に直面した場合、どんな働き方を望みますか
(「仕事を辞めて介護に専念」「休業制度を取得し、時期をみて復職」など)
Q12:公的な介護保険制度について、どの程度知っていますか
Q13:(介護していた方)介護休業を取得しなかった(取得できなかった)理由は何ですか
Q14:当社の介護に関する支援制度について、どの程度知っていますか
Q15:介護に関する支援として、提案や要望はありますか
なお、アンケートの結果を受けて具体的な対策を立てるために年代の記入は必須としても、部署・役職・名前については無記名または任意としたほうが、社員が実態を記入しやすいと思われます。
もちろん、希望する社員には、人事部などで個別の事情を聞く機会も設けるようにしてください。
また厚生労働省では、両立支援等助成金のひとつとして「介護支援取組助成金」を平成28年度に新設しました。これは、厚生労働省が作成する「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」に基づく取組を行った企業に対し、1企業1回のみ60万円を支給するというものです(平成28年度の両立支援等助成金のお知らせ参照)。
貴重な人材が介護等の事情により離職することを防ぐために、1人ひとりへの意識づけとともに、必要なときに、会社として支援の手を差し伸べられる環境をつくっていきましょう。
※本記事は、月刊「企業実務」(2015年4月号)に掲載した「介護離職を防ぐ職場環境をどのように整えるか」を企業実務オンライン用に再構成したものです。