マタハラの加害者は男性社員とは限らない
労働政策研究・研修機構によると、マタハラの被害者支援に取り組む民間団体「マタハラNet」が公表した「マタハラ白書」(2015年1月)では、マタハラを受けた相手でもっとも多かったのは直属の上司でした(複数回答)。一方で、「女性の上司や同僚からの被害も多く、加害者は男女を問わない」と指摘しています。
筆者のマタハラ相談の中でも、職場の従業員のうち半数以上を女性が占めている場合、女性上司から女性部下に、女性の同僚から女性の同僚に対するマタハラが起きている事例がありました。
マタハラが起きている職場に共通することは、周囲の無理解やマタハラ行為の認識不足など職場風土に課題が見られるとともに、組織としてのコンプライアンス(法令遵守)意識の欠如や雇用管理上の措置の不備など、意識面と制度面ともに課題が見られるケースが目立ちます。
そのような「安心できない職場環境」では、女性が継続して就業することは難しいでしょう。世界的にも特異とされているM字カーブ(女性の労働力率が30~34歳前後に落ち込む減少)の解消が遠のくのみならず、政府が掲げる女性の活躍推進も絵に描いた餅に終わってしまいます。
すでにあるハラスメント対策を拡充してマタハラ防止を
現在では、セクハラやパワハラを防止するための取り組みが各企業で徐々に進んできています。そこで、単独でマタハラ対策を検討・実施するよりも、すでに導入しているハラスメント対策を拡充するほうが、マタハラを含んだ総合的な職場のハラスメント防止効果が期待できます。
つまり、これまでのハラスメント対策に、妊産婦保護規定の周知・徹底を追加するのです。
さらに、妊娠や出産、育児と仕事を両立する働く女性の就業を困難にしている要因に、職場の恒常的な長時間労働があります。長時間労働の解消に向けて、仕事のムダを省いて生産性を向上させ、誰もが休暇の取得しやすい職場風土を整備していくことも大事です。
女性にとって働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい職場なのです。
万が一、マタハラ裁判が起きた場合には、企業は解決金や損害賠償金、慰謝料などを支払わなければならないこともあります。マタハラ防止に取り組むことは、企業の経営上のリスク対策にもつながります。