
最近うつ病で休職することになった社員について、実は学生時代にうつ病を発症していたことがわかりました。採用選考時に、うつ病などの精神疾患歴を調査しても問題ないのでしょうか?
採用選考の際に、うつ病等の精神疾患歴があるかどうかを調査し、その結果を理由として採否を決定することは違法ではありません。
使用者には採用の自由が認められている
使用者は、契約締結の自由の一環として、「採用の自由」を有しています。
採用の自由は、具体的には
① どんな人を採用するか選択する自由
② 採用にあたり調査をする自由
③ 契約締結を強制されない自由
などからなるものと考えられています。
この点について、最高裁判決(三菱樹脂事件・最大判昭48.12.12労判189.16)では以下のように判示されています。
企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる
つまり、「法律その他による特別の制限」がない限り、使用者には採用の自由が認められるということです。
「法律その他による特別の制限」に引っかからないか?
三菱樹脂事件では、思想・信条を調査し、その結果を理由に採用を拒否することは違法ではないと判断されました。
一方、その後の裁判例において、採用過程における血液検査で、本人の同意なくB型肝炎ウイルス感染検査を行ったことはプライバシー権を侵害するものとして違法と判断されました(B型肝炎ウイルス感染検査事件・東京地判平15.6.20労判854.5)。
この判断の違いは、調査対象となった事項が職務遂行能力に与える影響の大きさの違いによって生じたものであると考えられています。
三菱樹脂事件は、幹部要員という、企業経営に関する高度の判断力や指導力が必要とされる人材の採用の場面であったため、どのような思想・信条を有しているのかが職務遂行能力に大きく影響を与えるケースでした。
一方、B型肝炎ウイルス感染検査事件では、B型肝炎ウイルスキャリアであっても日常生活に制限を加える必要はなく、職務遂行能力への影響は小さいことから、そのような事項の調査やその結果による採用拒否は違法と判断されたのです。
それでは、採用選考時に精神疾患歴の調査をすることや、その調査結果を理由として採否を決定することは、どのように判断されるのでしょうか?
精神疾患は、労働能力の減退・喪失や、自傷他害、職場秩序の混乱を招くなど、職務遂行能力に与える影響は小さくないと言えるでしょう。
そうであるとすれば、採用選考時に精神疾患歴の調査をすることや、その調査結果を理由として採否を決定することは違法ではないと考えられます。
採用選考時に精神疾患歴の調査を行う方法としては、精神疾患歴の有無や精神疾患の治療中であるか否かについて求職者から書面で回答してもらうようにすると良いでしょう。
なお、採用後に病歴詐称等でトラブルとなった場合に備えて、この書面はしっかりと保管しておくことが肝心です。