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会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法 第1回

メンタル不調が心配される部下に「病院へ行け」と命令することはできる?

[ 苧坂 昌宏<おさか・まさひろ>(弁護士)]

もしも社員がうつ病になったら? 様々なケースに就業規則などでしっかり対応できるという会社はそれほど多くないでしょう。ひとつ間違えれば大きなトラブルに発展しかねない、メンタル不調者への対応のポイントを企業法務の専門家が解説します。

会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法

遅刻、早退、欠勤が続き、仕事上でも不手際が目立つようになってきた当社社員について、うつ病などのメンタル不調を心配しています。会社として、病院で受診するように命令することはできますか?

answer

就業規則に受診命令に関する規定があるときは、その規定にしたがって命令を出すことができます。規定がないときは、受診させることにつき「合理的かつ相当な理由」が認められる場合に、命令することが可能な場合があります。


じつは怖い…メンタル不調者を放置するリスク

 メンタル不調を抱えた社員をそのままにしておくことは、会社にとっても大きなリスクです。

 出勤状況の悪化や仕事上のミスなどで業務に支障きたすだけでなく、突然の休職や退職、あるいは最悪の場合、自殺に至るようなケースも想定されます。

 そのような事態になれば、会社は退職した社員や遺族からの訴訟・賠償リスクだけではなく、世間から“ブラック企業”とのレッテルを貼られ、企業としてのブランド価値や社会的信用を損なうリスクにさらされることになります。

 そうしたリスクを防ぐためにも、メンタル不調が疑われる社員がいたら、本人の納得を得たうえで、速やかに医療機関を受診させるべきでしょう。

Step1: 自発的に受診することを促す

 とはいえ、メンタル不調については、いきなり病院で受診するよう命令(受診命令)を出したとしても、本人に病識がなく納得を得られないことが少なくありません。

 そのため、まずは産業医などとも相談のうえ、本人に対して事情(出勤状況や仕事上のミスなどによる業務上の支障など)をできるだけ客観的に、丁寧に説明し、本人が自発的に受診するよう促すことが大切です。

Step2: 就業規則の規定にしたがって受診命令を出す

 丁寧に説明しても本人が自発的に受診しない場合、次の段階として受診命令を出すことが考えられます。

 受診命令については、一般的に、就業規則に合理的な規定があれば、その規定にしたがって出すことが可能であると考えられています(最判昭和61年3月13日〔電電公社帯広局事件〕)。

 就業規則の規定例は以下のとおりです。

第●条 出勤状況、勤務態度及び業務の遂行状況その他の事情により、社員の身体又は精神に疾患又は不調があると会社が認める場合、会社は従業員に対し、会社の指定する医療機関又は医師への受診を命じることができる。

 これから規定を作成するという場合は、会社の具体的な状況を踏まえて作成することが望ましいので、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するといいでしょう。

就業規則に規定がない場合

 また、就業規則に受診命令に関する規定がない場合については、「合理的かつ相当な理由」があると認められる場合に、会社が受診命令を出すことを認めた裁判例があります(東京高判昭和61年11月13日〔京セラ事件〕)。

従業員のメンタル不調を察知する体制づくりを

 メンタル不調はセンシティブな問題です。社員とのトラブルを防ぐためにも、会社としては専門家に相談するなどして慎重かつ迅速に対応する必要があります。

 新たに始まるストレスチェック制度を活用する(厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」)などして、従業員のメンタル不調にいち早く気づき、早急に対応することで事態の悪化を防ぎたいところです。

▼連載「会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法」
著者 : 苧坂 昌宏<おさか・まさひろ>(弁護士) 東京都出身。早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会労務・社会保険法研究会、第二東京弁護士会会社法研究会所属。顧問先企業の企業法務一般のほか、労働法、経済法、倒産法案件などをメインに、予防法務から紛争処理まで幅広いリーガルサービスを提供している。
【ホームページ】銀座楡の木法律事務所

【第二東京弁護士会労務・社会保険法研究会】中小企業が抱える労働関係のトラブルや社会保険関連事務の処理問題について、労務問題に詳しい弁護士と社会保険労務士が有機的に連携し、企業経営に資するソリューションを提供するため、幅広い活動を行っている。
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