勤続10年の女性社員を管理職にしようとしたところ、育児を理由に断られました。男性社員だったら、ありえないことだと思うのですが…
最近は、男性でも管理職になりたくない社員は増えています。特に女性は、肩書きよりも〝ライフスタイルにあった働き方〟を大事にするようです。
女性管理職を増やせば「女性が活躍できる社会」になるのか?
平成27年9月に施行された女性活躍推進法では、女性の職業生活における活躍推進の基本原則を次のように定めています。
女性活躍推進法の基本原則
- 女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供およびその活用を通じてその個性と能力が充分に発揮できることを旨とすること
- 女性が結婚、妊娠、出産、育児、介護その他の家庭生活に関する事由によりやむを得ず退職することが多いこと等を踏まえ、職業生活と家庭生活の両立を図るために必要な環境の整備により、それら生活の円満・継続的な両立を可能とすることを旨とすること
- 女性の職業生活と家庭生活の両立に関する本人の意思の尊重に留意すること
これらの原則を踏まえたうえで、会社は女性が働きやすい環境を整備していく必要があります。
国は、従業員数301名以上の企業に対して、以下のことを義務づけました。
- 自社の女性の活躍状況の把握・課題分析
- 「一般事業主行動計画」の策定・届出
- 情報の公表 など
※従業員数300名以下の企業については努力義務
具体的に、女性の活躍状況については、
- 採用者に占める女性比率
- 勤続年数の男女差
- 労働時間の状況
- 管理職に占める女性比率
を把握することとされています。
状況把握、課題の分析、行動計画の策定および公表については、厚生労働省のホームページに「一般事業主行動計画策定支援ツール」が準備されています。
このように、法律で女性の活躍状況を計る基準を具体的に示されると、
「採用する際に女性の割合を増やそう」
「できるだけ出産・育児で離職する女性を少なくし、女性の勤続年数を長くしよう」
「管理職になる女性を増やそう」
と考える会社が出てくるのは当然のことだと思います。
このうち、女性の採用を増やすことは事業内容や求職者の総数および男女比率によって異なりますが、会社の取組みによって改善することは可能でしょう。
しかし、出産・育児での離職者を減らすことと、女性管理職を増やすことは、いくら会社が環境を整えたところで、女性の価値観はさまざまなので一筋縄ではいきません。
多様な価値観に合わせた〝働き方の選択肢〟を
会社がすべきことは、出産・育児をきっかけに家庭に入りたいと考えている女性を引き留めることではありません。
出産後も働き続けたいと考えているのに諸事情で退職せざるをえない女性社員のために、働き続けることができる職場環境を整えることです。さらに、管理職になりたいと考えている女性にはチャンスを与えることです。
ここでのポイントは、あくまでも「女性社員の意志」を尊重し、それをサポートする体制をつくることにあります。必ずしもすべての女性が、子どもを産んでも働き続けたい、さらに管理職になりたいと考えているわけではありません。
たとえば「女性は管理職にしない」と決めている会社があるとすれば問題ですが、男女関係なく個人の適性や意欲から判断した結果、(現時点では)女性の管理職がいない会社は、果たして問題でしょうか?
「女性の管理職がいない会社=女性が働きにくい職場」と言い切ることはできないでしょう。
もちろん、管理職を目指している女性もいます。しかし、すべての働く女性が管理職になることをゴールに見据えているわけではないのです。その傾向は女性だけでなく、男性にもあるようです。
特に女性の場合、家庭における役割が大きいというこれまでの慣習もあり、それぞれのライフスタイルや価値観に合わせた働き方の選択肢を準備することが、「女性にとって働きやすい職場」といえるでしょう。
正社員、契約社員、パート社員など、女性のライフスタイルに合わせた雇用形態を用意し、それぞれの立場で女性社員が充分に能力を発揮して働くことのできる職場環境を整えることが大切です。
- ▼連載「女性社員のトリセツ」
本記事は、『トラブルにならない小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)より内容を抜粋し、企業実務オンライン用に再構成したものです。
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