営業の若い女性社員が、上司からセクハラを受けたと訴えてきました。上司はまったく身に覚えがないといい、その女性社員への対応に困っています…。
「セクハラ」の判断基準は「相手がどう感じたか」。セクハラの訴えを安易に考えて放置することは、会社にとって大きなリスクです。
しかし加害者とされる相手方にも人権があることを配慮した上で双方から言い分を聞き、事実関係の調査を慎重に行いましょう。
女性はすぐに「セクハラ!」と言ってくる?
女性社員と聞くと、すぐに「セクハラ」というキーワードを頭に浮かべる人が意外に多いのですが、これは問題です。たしかに、「これくらいのことで…」と思われる程度の男性社員の言動にも、「セクハラ、パワハラ」を連発する女性社員もいるのでしょう。
しかしそれはごく少数です。セクハラの被害者になるのは多くの場合、若い女性社員です。正社員とは限らず、契約社員や派遣社員である場合もあります。
被害者は立場上、「セクハラじゃないか」と思っていても、なかなか言い出せないものなのです。それにもかかわらず、女性社員や周りの人から「それってセクハラではないですか?」などと真面目に指摘された場合は、相当なレベルのセクハラである可能性があります。
「そういうつもりではなかったのに…」と思っていても、セクハラかどうかの判断基準は「相手がどう感じたか」なのです。
特に、女性の部下をもつ男性は、女性社員とコミュニケーションをとる際の発言・行動の前に一度立ち止まって、それがセクハラに当たらないかどうかを考えてみてください。
もし「こんな言動は危ないかも…?」と思ったら、口に出したり、行動に移したりしないほうがベターです。
ちなみに、セクハラは女性社員に対してだけの問題ではなく、女性から男性、男性から男性への発言や行動であっても、該当するものについては「セクハラである」と認定されてしまいます。
セクハラ問題の根底にあるのは、
・他人への気遣いがあるか
・仕事のパートナーとして相手を認め、人として尊重する気持ちがあるか
この2点です。
「親しさの表現」ではすまされない
職場でハラスメントが発生するのは、他人を思いやる気持ちに欠けているからだと考えられます。自分の価値観を基準にして、「これくらいは大丈夫」と安易に判断するのも御法度です。
最近では、ハラスメント研修を徹底的に行なっている会社が増えてきたので、「セクハラ」に対する意識も高まっているように感じますが、まだまだ昔からの習慣で、女性社員だけにお茶汲みをさせたり、「○○ちゃん」などと下の名前で呼んだりするような職場もあるようです。
これを〝アットホームな職場〟と考える人もいるようですが、残念ながら現代の感覚とは少しズレているといわざるを得ません。
女性社員を「仕事のパートナー」としてではなく、いつまでも「職場の華」のような扱いをしている会社では、どうしても女性社員の容姿が気になったり、プライベートなことに口を出したりすることに無神経になりがちです。
それを「セクハラだ」と感じる女性社員に対し、
「コミュニケーションをとろうと思っただけなのに、女性社員は扱いにくい」
と自分よがりに考えてそうした職場環境を放置していると、被害者がメンタル疾患に罹患したり、最悪の場合、会社が訴えられたりすることもないとは限りません。
ハラスメント問題が発生する原因として、それを許す職場風土があること、すなわち、経営者およびその職場で働く人の意識・モラルの低さがあると考えられます。
女性社員はもちろん、すべての社員が長く働いてくれる職場をつくるために、まずは、ハラスメントとは何かを知ること、そして防止のための対策をとることが必要です。
- ▼連載「女性社員のトリセツ」
本記事は、『トラブルにならない小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)より内容を抜粋し、企業実務オンライン用に再構成したものです。
『トラブルにならない小さな会社の女性社員を雇うルール』
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