仕事で受け取った「名刺」は、会社のもの?
一般に、社員が退職する際、仕事上、受け取った名刺は会社へ返却するというルールを設けている会社が多いと思われます。
ところが、こうした名刺の所有権や帰属についてはいくつかの見解があり、退職者と会社の間などでトラブルも起こっています。
●退職者が「会社に返却するもの」
- 身分証明書、社章、名札、自分の名札(社員であることを示すもの)
- 仕事上、受け取った名刺
- 資料(経費で購入した書籍・雑誌、各種統計資料)
- 設計図面、企画書やプログラムなどを含めた作品類
- 業務スケジュールなど仕事の情報を記した手帳、ノート類
- 会社所有のパソコン、筆記具など文具類
- 制服、作業着
- 通勤定期券、健康保険の被保険者証
- 鍵(社屋、事務所、作業所、社用車、ロッカー、机など)
- 社内融資 など
通常は、社員が仕事上で受け取った名刺は、社員個人が管理していても“会社のもの(情報資産)”と考えられています。そのため、退職する社員の名刺は、すべて会社に返却するのが原則です。
一方、退職する社員にとって、名刺は額に汗して働いて集めた仕事の証であり、大切な人脈です。その人脈は、退職後のビジネスに活かせる可能性も高く、できれば処分せずに持ち帰りたいと思う人もいるでしょう。
あるいは、退職後に落ち着いたら、お世話になった人へ挨拶状を書きたいので、名刺のコピーやデータが欲しいという人も少なくありません。
そのため、「集めた名刺を持ち帰ってよいのか、会社に返却すべきなのか」で意見が分かれたり、揉めたりすることがあるのです。
会社としては、一面識もない人物の名刺の束を置いていかれても邪魔になるだけ、という場合もあるでしょう。名刺の返却を受けることで必要以上の情報を入手することになり、個人情報保護の観点から考えても、扱いに悩むケースは少なくないようです。
法的な面からとらえると、名刺の帰属については、会社の財産ではなく、個人の財産と認めたケースもあるようです。ところが、退職者が名刺を持ち帰って転職後のビジネスで活用するようなことがあれば、前職の会社が損害や迷惑を被ることにもなりかねません。
「名刺は誰のものか」という問題は個別の事情で異なり、一概に言えない面もありますが、名刺をめぐって、ときには争いになるケースもありますので、やはり管理上のルールは必要です。
名刺は「個人情報」であるという認識をもつ!
名刺には、さまざまな「個人情報」が盛り込まれています。
「個人情報」とは、氏名や住所、電話番号、生年月日などに限りません。職種や肩書、家族構成、財産などの情報も、個人情報には含まれます。
また、個人を特定できるものであれば、文字で表現される情報だけでなく、写真や映像、音声なども対象となります。この場合、情報が暗号化されているかどうか(第三者が簡単に閲覧できない状態かどうか)は関係ありません。
たとえば、名刺に似顔絵や写真を入れたり、私的な携帯番号やメールアドレス、ブログ・ウェブページ・SNSなどにアクセスできるよう、URLやQRコードを載せたりしているケースもあります。
その多くは「個人情報」です。
会社では、営業や販売活動などを通じて社員が顧客から受け取った名刺の情報は、顧客名簿などで検索・活用できるよう、体系的にデータ化して管理することがよくあります。その名簿上のデータも個人情報ですから、情報源である名刺を社員が退職時に持ち帰ってしまうようなことがあれば、それを許した、あるいは黙認した会社は、個人情報保護法に違反する行為(第三者への提供)を行っているとみなされてしまいます。
最近は、OCRで名刺情報を読み取って会社のデータベースで管理保管することに加え、スキャナーやスマートフォンのカメラなどで名刺データを取り込み、クラウド型の名刺管理を実施しているケースも増えてきました。
すると、退職者が集めた“紙”の名刺をどう扱うか、というレベルにとどまらない状況にもなっています。
そこでまずは、「名刺そのもの」と「名刺に載っている情報」を分けて考えてみましょう。
「名刺そのもの」は、退職者にとっても会社にとっても、ただの“紙”です。会社として処分すると決めているなら、社員はその求めに応じるべきですし、返却を受けたら、相応の処理をすべきです。
重要なのは「名刺に載っている情報」の扱いです。その情報をどう管理していくか。ここを明確にすることが大切です。
取引頻度の高い顧客だろうと、一度挨拶しただけで仕事上の結びつきは薄い顧客であろうと、名刺に書かれた内容の多くは個人情報です。
広い意味での顧客情報を「どう管理していくか」が問われているのです。