来店されたお客さまの様子を従業員が店のブログに投稿しています。
どんな点に注意すべきですか?
どんな点に注意すべきですか?
- 質問者
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私は飲食店を営んでおり、お店のブログを開設して情報発信などを行っています。ブログには従業員も自由に投稿できるようになっていて、ご来店いただいたお客さまの様子なんかも投稿されているようです。
この間は、有名俳優(名前は伏せてありましたが、現在出演中のドラマの名前がでていたりして、本人が特定できるものでした)が女性を連れて食事に来た様子を紹介している記事が投稿されていました。
このような場合にどのようなことに気をつけたらよいでしょうか?
肖像権やパブリシティ権、プライバシー権の侵害に注意が必要です。
- 弁護士
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お客さんの写真を撮ってブログに掲載する場合には肖像権(そのお客さんが有名人だった場合にはパブリシティ権)の侵害にならないよう、同意を得る、個人が特定できないように加工するなどの配慮が必要になります。
また、写真がなく文章だけであっても、その個人が特定できる場合等については、プライバシー権の侵害にならないように配慮する必要があります。 - 質問者
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「プライバシー権」という言葉は聞いたことがありますが、法律上どのように定義されているのですか?
- 弁護士
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プライバシー権は、肖像権(第5回 どんなケースが「肖像権の侵害」に? 具体的に気をつけるべきポイントは?参照)やパブリシティ権(第10回 街中で人気アーティストに遭遇! スマホで撮った写真をブログにアップしても問題ない?参照)と同様、その内容を具体的に定める法律は存在しないのですが、裁判例において「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」として、その権利性が認められています。
プライバシー権侵害の判断基準というのは決まっているのでしょうか?
- 弁護士
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これまでの裁判例によれば、プライバシー情報を本人の同意なく公開し、公開されたことによって本人が不安の念を覚えた場合は、プライバシー権の侵害になる可能性があるということになります。
プライバシー情報とは、- ① 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがある
- ② 一般人の感覚を基準として公開を欲しない
- ③ 一般の人々に未だ知られていない
以上を満たす情報のことをいいます。
- 質問者
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そうしますと、冒頭でご相談したケースで考えると、どこのお店で誰と食事をしたかは①私生活上の事実であって、②一般的な感覚からしても人に知られたくはない情報だと思います。③一般には知られていない情報でしょうから、従業員がブログに投稿したのは、お客さまのプライバシー情報ということになるのでしょうか…。
- 弁護士
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そのように考えてよいと思います。ですから、その方が来店した事実をブログに掲載する場合は、ご本人の同意をいただいた上で行うべきです。
- 質問者
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その俳優さんの場合は、ご本人がSNSで、当店で食事されたことをつぶやいておられたようです。それでも問題はあるのでしょうか?
本人が公開していない情報まで掲載した場合は、プライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
- 弁護士
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その場合、本人による黙示の同意があったと考える余地はあるかもしれません。
ですが、本人がお店に行って食事をしたというところまでしか事実を公開していないのに、特定の女性を同伴していたことまでブログに掲載してしまったような場合は、同意の範囲を超えて、本人が知られたくない情報を公開していることになりますから、プライバシー権侵害にあたると判断される可能性は十分にあります。ご質問いただいた事例からは離れますが、社会一般の関心や批判の対象となるべき公的な事項に関する事実(例えば、政治家の前科等に関する事実)については、公表されない利益(プライバシー)よりもそれを公表する利益(表現の自由)が優先され、プライバシー権侵害が否定される場合もあり得ますが、極めて慎重な判断が必要です。
- 質問者
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従業員がお客さまの様子をブログに投稿するときは、公開する前にチェックするなどして気をつけなければいけませんね。
それでもプライバシー権を侵害してしまった場合は、どうなってしまうのでしょうか? - 弁護士
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被害者としては、掲載者に対して、掲載情報の削除を求める方法が考えられます。
また、プライバシー権の侵害により精神的苦痛等の損害が生じていれば、損害賠償請求をすることも考えられます。
投稿した本人ではなく、サイト管理者の私が何か請求をされるということはあるのでしょうか?
- 弁護士
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被害者からしてみれば、誰が情報を掲載させているのかわからない場合もあるので、そのような場合には、情報が掲載されたウェブサイトの管理者に対して掲載情報の削除を要請する方法が考えられます。
このように被害者から削除要請を受けたにもかかわらず、管理者がプライバシー情報を速やかに削除しなかった場合には、管理者が損害賠償責任を負う場合もあります。 - 質問者
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管理者としても対応が必要になってくるというわけですね。
- 弁護士
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プライバシー権侵害を引き起こさないための事前の防止策としては、自社ブログへの投稿については管理者のチェックを必須とするなどの方法が考えられますが、そもそも、従業員が軽率、不用意な記事の投稿を行わないよう、教育を行うことが重要です。
プライバシー権を侵害してしまった場合(事後的)には、当該情報を速やかに削除するなど、迅速かつ適切な対応ができるように体制を整えておくことが肝要です。
- ▼連載「弁護士が教える「ネットの法律&マナー」講座」
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- 第11回 「プライバシー権の侵害」とは? 店内の様子をブログに投稿する際、どんな注意が必要か?
- 第10回 街中で人気アーティストに遭遇! スマホで撮った写真をブログにアップしても問題ない?
- 第9回 ライフログを取得・利用する際に注意しなければならないこと
- 第8回 知人のコンサートや試合の動画を投稿するときも、著作権や肖像権が関係してくる?
- 第7回 ネット上で素敵な写真を見つけました。自分のサイトに転載してもいい?
- 第6回 他社の商標を“検索連動型広告のキーワード”や“メタタグ”に使いたい…
- 第5回 どんなケースが「肖像権の侵害」に? 具体的に気をつけるべきポイントは?
- 第4回 ステマに注意! 企業から頼まれて商品レビューを書く場合に気をつけたいこと
- 第3回 告訴されることも! ネットへの書き込みで刑事上の責任を問われる場合とは?
- 第2回 ブログで他人の著作物を引用したり、「まとめサイト」を作ることに問題はない?
- 第1回 著作権とは何か? ネットで情報を発信するとき、どんな注意が必要か?