「働かなくなった後」の過ごし方を考えよう
先日、編集担当のAさんが仕事の打ち合わせに事務所にいらっしゃいました。Aさんは自称アラフォーの女性編集者で、今は仕事が楽しくて仕方がないといった印象です。
「Aさん、歳を取ったら何をして過ごすの?」と筆者。
「できるだけ長く仕事をしたいです。できたらずっと」とAさん。
確かに、労働人口が減少し、職種によっては慢性的な人手不足が続きそうです。しかも年金だけでは暮らせそうもない…。
かつてのような高度成長期とは違い、継続的な給与アップも望めそうもないので、老後に向けてどれだけ貯蓄できるかも不安。そもそも1980年頃であれば100万円を金融機関に預けたら10年で約2倍の200万円になったものが、今は――。言わずもがなです。
とはいえ、できるだけ長く働いたとしても、会社員として働けるのは65歳かせいぜい70歳まで。いや、そこまで働ける人は、たぶんひと握りではないでしょうか。
「あなたが必要だ」と会社から請われても、体力の低下や家族事情などで働くことが辛いこともあります。反対に、働く意思と能力があっても、働き口が見つからないこともあります。
世の中、そううまくはいかないものなのです。
雇われて働き続けるのも煩わしく、起業して働くのは厳しい…
人に雇われるということは、それ相応に拘束されることでもあります。
労働時間や働く場所、仕事の内容etc…好きなようにふるまうことはできません。おまけに、拘束されることは、歳を取るにつれてだんだん煩わしく、窮屈になってくるものです!(これは筆者の経験からの結論ですが)
「渡辺さん(筆者)はいいですよね。起業しているから、自分のペースで自由に仕事ができるでしょう」とよく言われますが、起業も傍からみるほど自由ではありません。
私も、起業する前は「起業したら、閑散期の平日の超格安航空券をゲットして、思いついたらNYやスペインに行ってくるような生活をしよう」と目論んでいたのですが、いやはや実際に待っていたのは、忙しかった会社員時代と同じか、それ以上に仕事中心にスケジュールを組む生活でした。
考えてみれば、有給休暇がもらえる会社員と違い、自分が仕事をしないと収入もないのだから、それも仕方ありません。収入がなければ、いくら時間があっても、いくら超格安でお得な航空券があっても、旅行する費用が捻出できません。
そんな当たり前のことに、あらためて気づかされるのが「起業」です。
こういう意味では、世の中は本当にうまくできているなあと思います。
「歳をとって会社勤めが辛くなったら、起業して自分のペースで自由に働こう、収入は年金があるからさほど多くなくてもいい…」
そんなふうに働き続けることができればどんなに幸せかと思いますが、自由にできる仕事などそうあるはずもありません。
会社員とは違った意味での拘束、しかも誰にも守ってもらえない緊張感。これが起業の現実です(と、筆者は考えます)。
人生で一番辛いのは「何もすることがなくなったとき」
で、話を戻しましょう。
たとえ何歳まで働いたとしても、その後に必ず「フリーな時間」というものがやってきます。冒頭で紹介したAさんへの質問は、つまりこういうことなのです。
「働けるうちは働く。それで働けなくなったら、何をして過ごすの?」
人生のゴール前にやっとたどり着いたフリーな時間に、そのときには頭も身体も思うように動かなくなっていたら、「自分の人生の楽しみは何だったのだろう…」と考えることになるのではないでしょうか。
ある人生の先輩の話をしたいと思います。その人は80歳代の女性。いわゆる職業婦人の最先端を突っ走ってきた人です。
TV局のアナウンサーを皮切りに、プロデューサー、そしてディレクターを経て、関連会社で75歳までバリバリの職業人生を送り、会社を退職した後も、80歳を少し過ぎる頃までカルチャーセンター等で教える仕事をしていました。
女性が働くことに世間の目が冷たかった時代に、本当に頑張っていた彼女は、現役時代は、苦難を乗り越えることが楽しそうにさえ見えるほど輝いていました。
その彼女が言うのです。
「いままでいろいろな出来事に遭遇し、悩み苦しみ、もがいてきたけれど、一番辛かったのは、何を隠そうリタイアして何もすることがなくなったときなのよ。
仕事をしていた頃は、合間の時間をどうやってうまく使うかを真剣に考えた。もっと時間があったらいいのに、といつも思っていた。
でも、1日24時間、自由な時間をそっくりそのまま自分に戻されて『どうぞ、お好きなように使ってください』と言われた途端、どうしていいかわからなくなっちゃったのよ。
自分の時間をどうマネジメントするか。これが人生で最大の課題よ。
50歳を過ぎたら仕事もいいけれど、自分の時間を少しずつ増やしていくことね。どうやって自分の時間をマネジメントしていくか、長いスタンスで自分のやりたいことを考えることが大切よ。老後に向かって、これが一番大事な仕事」——。
実は、これは筆者の実母の言葉です。