アップライド株式会社─代表取締役・宇吹氏
こんにちは。『企業実務』広報担当です。
中小企業の管理部門は、少人数で幅広い業務を行っていますが、片手間ではできない専門性の高い仕事をしているスペシャリスト集団です。
彼ら一人ひとりは表立っていないにも関わらず、経営の軸といわれるほど会社にとって重要な存在です。
そこで、「経営者こそ経理や法務を学ぶべきだ」と語る、アップライド株式会社の代表取締役・宇吹(うすい)さんへのインタビューを通して、“なぜ、管理部門は従業員・会社経営にとって大切なのか”を紐解いていきます。
宇吹さんが経営する アップライド株式会社は、福祉用具・介護機器のレンタルから販売、住宅改修を手掛けています。
2020年にリブランディングを経て、抱え上げない介護“ノーリフティングケア”とお客様の理想を叶える“ケアの仕立て屋”をテーマに設定。「未来につながるケアと暮らしをお仕立て。」を掲げて、更なる飛躍を目指しています。
会社の「リブランディング」を決意した背景
─2019年に今の会社に移られてから、まもなく3年が経ちますね。
転籍に至る経緯やそれまでの会社の状況を教えてください。
宇吹:私は前職で、医療介護用品を扱う会社で営業をしていたのですが、介護用ベッドを病院や介護施設に導入してもらうために、多くの代理店さんに出入りしていたんです。
宇吹:その中の1つに当時の太田社長が作った「有限会社オオタ商会」という会社がありまして、営業課長だった頃に初めてお会いしました。
なかなかクセが強い社長で、若手の営業社員では上手く渡り合えなくてですね(笑)
宇吹:私が担当になったのを機に、何度も足を運んで親身に話を聞くように心がけているうちに、太田社長に目をかけていただくようになったんです。
─取引相手として、信頼関係が生まれたんですね。
宇吹:そうですね、だいぶ可愛がってもらった気がします(笑)
あるとき、太田社長から電話があって「今晩空いてたらこの店に来て」と言われまして、仕事の話だと思って駆け付けたんですね。
宇吹:いざ、行ってみると鉄板焼きのお店で(笑)
しかも、太田社長に加えて、奥様とお嬢様も居られて、家族団らんの場だったんですね!
宇吹:お酒を飲みながら食事をして……「ところで今日のお話しは何でしょう」と伺いましたら「ないよ。ただ一緒に食事をしたかっただけ」と言われて、てっきり仕事のお話があるのかと思っていたので驚きましたね(笑)
その日はお酒を飲んでいたので、社長の奥さまに車で自宅まで送っていただきましたが、その頃から家族ぐるみでお付き合いさせていただくようになりましたね。
宇吹:そのように仕事でもプライベートでも呼び出されるようになって、何年かしてから、会社を継がないかという話をされたんですね。
─社長から直接のオファーがあったんですね。
宇吹:関心はありましたが、まだ若かったですし当時の会社でやりたい事があったので、この時はお断りしたんです。
宇吹:それから私が担当を外れた後も、たまに太田社長にお会いして食事に行っていたんですね。わたしが50代半ばになった頃、改めて太田社長から「そろそろ君も定年があるし、会社を継ぐことを真剣に考えてくれ」と言われたんです。
自分が役職定年を迎えてこの業界の仕事を辞めるなんて考えられなかったですし、再雇用で仕事をセーブするのも嫌だったんですね。
宇吹:太田社長が熱心にオファーしてくれたということもあって、受けてみることを決めました。
─転籍されてみていかがでしたか?
宇吹:弊社はもともと<有限会社オオタ商会>という社名だったのですが、有限会社というと歴史があるしっかりした会社だと思われなかったのか、社名を理由に注文を断られたことがありました。
お客様へ真摯に対応していたので、社名のイメージで「怪しい」と言われ非常にショックを受けましたね。
─それはショックな出来事ですね。どのように乗り越えようと考えたのですか?
宇吹:そこで、どうにかイメージを変えたるために「リブランディングをしたい」と言いました。
社名変更とビジョン策定、ホームページのリニューアルなどですね。
─社名変更のみでなく、リブランディング…大規模な取り組みですね!
宇吹:というのも、会社名を変えるだけでなく、会社とお客様とのコミュニケーションも作り直さないと、イメージは良くならないと思ったんです。
宇吹:弊社では、介護リフトを重点的に取り扱っていて、介護施設を運営する法人だけでなく、自宅に導入したいという個人の方にもサービスを提供しています。
私たちは、人の手で抱え上げない介護“ノーリフティングケア”を広めたいと考えているんですね。
宇吹:抱え上げることによる腰への負担って相当大きいですし、介護職の人材不足がとても深刻ですから、その一助になりたいと思っているんです。
介護する側だけでなく、される側も抱え上げられることに対するストレスがあったりするので、介護の現場では段々と浸透していますね。
抱え上げない介護「ノーリフティングケア」に注力している
宇吹:こういった思いをお客様と共有するには、もっと社員に親近感を持ってもらう必要があると考え、ホームページ内に“アップライドマガジン”というコーナーを作りました。そこで、社員が社内の舞台裏だったりセミナーレポートだったりを発信しています。
最近ではアップライドマガジンを見て、お客様からご連絡をいただくことがありますよ。
─社員一丸となっての取り組みなんですね!
宇吹:会社というのは、やはり社員みんなで動かしていくものだと思っているので、私一人がリブランディングをしたいと叫ぶだけではどうにもならないんですね。
ですから、社員に意図を説明し納得してもらってから、巻き込むような形でリブランディングに協力してもらいました。
リブランディング成功の秘訣は、「社員主導」
─社員の皆さんには、リブランディングにどのように関わってもらったのですか?
宇吹:大きな方針の柱立ては私が行いましたが、アイデアや意見を出して組み立てていくのは社員のみんなです。
社員間で意見を出して議論して、やりたいと思っていることを実現してもらっています。
─実際に現場からの案で実現できた事はありますか?
宇吹:例えば、ホームページのリニューアルにあたり、社員みんなでお客様にサイトを見てもらうための施策を議論したんですね。社員みんなでアイデアを出しては没案になり……解決の糸口が見えないというのを繰り返していたんです。
宇吹:ある社員から「せっかくホームページにアップライドマガジンを書いているのだから、見てもらうきっかけ作りに内容をフリーペーパーとして配布したらどうか」という意見が出まして。
そこで、社員が主導となってフリーペーパー『UPRIDE VOICE』を作成して、実際にお客様を訪問する際に渡すことを始めました。
宇吹:お客様の中には、まだまだデジタルよりアナログの方に馴染みある方が多くて、やはり紙面は読みやすいという声がありますね。
それに、フリーペーパーを直接手渡しされることで、いざサイトを見た時に温かみを感じるようで、フリーペーパーは評判が良いんですね。
宇吹:フリーペーパー作成は私一人では成しえなかったアイデアです。社員あってのリブランディングですよね。
フリーペーパー『UPRIDE VOICE』
─なぜ社員主導を重視しているんですか?
宇吹:私自身、36年間、営業を経て外部への出向や新規事業など色々なことに携わってきたんですね。
これまでに培った、お客様との会話を通して相手が何を求めているのか想像する力だったり、トラブルが発生した時に先回りして対策を打つ対応力だったり、経営する立場になっても活かせる現場での経験が多いんです。
同じことを「作業として」毎日やっていても成長しないじゃないですか。
宇吹:だから、社員にも新しいことに挑戦して、たくさんの経験を積んでもらって、その経験を自分の糧にして欲しいという気持ちがありますね。
宇吹:何かを作り上げていくことは結構快感なので、社員にはそういう快感を味わって欲しいなと思っています。
─普段やらないことに挑戦できるのは、やる気が上がりそうですね!
宇吹:社名を変える際にも社員みんなで決めてもらったんです。社名を自分たちで変える経験なんて、なかなかないので良い刺激になったと思います。
社員が主導となって会社を変えていく、という意識になったのではないのでしょうか。
宇吹:ただ、積極的に会社を動かす意識を持ってもらおうとしているわけではないんです。
社員が経営の課題に取り組むことで、社員同士・社員とお客様・社員と会社などの繋がりが広くなり強くなる、そんな組織になると私は思っています。
会社の発展は社員の成長あってこそ
─宇吹さんの温かい想いを感じますね。
宇吹:もちろんお客様への想いもあります。しかし、会社を継続的に運営していくためにも、“社員を育てること”と“お客様への想い”のバランスが大切だと思っていますね。
社員がいるからこそ会社が継続できますし、会社が継続するからこそお客様に価値を提供し続けられるんですね。
宇吹:だからこそ、従業員を支える人事考課のあり方や社内規程の整備といった、管理部門が担う業務は最重要だと思っています。
宇吹:例えば、テレワークの導入で人事考課に格差が生まれる、だとか、法改正により以前までの社内規程が法律に抵触してしまう、などのように基盤がぐらつくと従業員もついて来ないし働くことに不安を持ってしまいますよね。
管理部門の業務は社員の基盤を形成している大切な仕事なんです。
─管理部門は、社員にとって必要不可欠ということですね。
宇吹:会社は社員という基盤があってこそ発展しますし、社員は管理部門という基盤があってこそ成長できます。
─「管理部門が強固になるから、社員の働く環境が整う」ということですね。
宇吹:そうですね。社員の信頼を得て安心して業務に取り組める環境を作ることは、結局会社経営の根本になりますからね。
それを担ってくれるのが管理部門の機能だと思っています。
管理部門こそ、経営者が注視しなければならない
─管理部門と一口に言っても、業務は様々ですよね。
宇吹:管理部門は、先ほど例に挙げたように時代に合わせた社内規程の整備や法改正への対応など、常に新しい情報を取らなければならないですし、会社の損益状況や財務状況を示すために決算書を作成したり、事業運営に必要な資金調達するための資金調達計画を策定したり……と、複雑な業務が多いんですよ。
宇吹:我々のような中小企業だと経理・人事・労務・総務を少人数でこなさなければいけないので、私も管理部門の業務について勉強をしていますが、本当に大変です(笑)
─経営する上で管理部門が軸だからこそ、常に知識のアップデートが必要なんですね。
宇吹:管理部門の知識は役に立つ、というより経営に必要不可欠な心臓部ですね。
宇吹:弊社のように従業員数が20人ほどの中小企業は、たくさんあると思います。
ですが、社員の問題にどう対処するべきなのか、法制度の理解を持っている経営者はなかなかいないと思います。
宇吹:経営者が、会社を支える管理部門の重要性を知って、その業務を学んでおくことは会社経営の大きなプラスになると考えています。
アップライド株式会社では、宇吹さんご自身が管理部門の情報収集を行い、会社経営の基盤作りに活用しています。
宇吹:簡単に「管理部門」と言われますが、実は会社の基盤となる人・モノ・金を守る機能が集結しているわけで…この重要性を理解して会社の舵取りをしたいと考えています。
「従業員の力は会社経営に必要であり、従業員が120%で力を発揮するには管理部門の機能が不可欠である」と強く話していました。