映画をダメにした「高学歴者」
企業を取り巻く環境は、いつの時代も厳しい。映画界の斜陽化は、その厳しい企業社会の流転を象徴している。
その昔、日本映画全盛時代があって、その作品水準も高く、世界的に評価されていた。キラ星のごとくに世界的な監督がズラリといて、その作品に観客が押しかけた。それが斜陽産業になってしまったわけだが、そのパターンは、「日本の企業の盛衰の典型的パターンだ」というのは、さる映画評論家。学歴偏重と偏差値偏重が、映画を斜陽産業にしたという。
映画産業の黄金時代を準備した監督たちの学歴は、どれも低い。衣笠貞之助、小津安二郎、島津保次郎、溝口健二。これらの人々は、世界中の映画監督たちに尊敬されていて、映画史に名をとどめているが、学歴は高くない。溝口健二、衣笠貞之助が小学校卒。小津安二郎、島津保次郎は中学卒。巨匠といわれる黒澤明、豊田四郎、吉村公三郎、木下惠介も中学卒、市川崑が商業学校卒だ。
そして、この低学歴の人々の作った映画が、世界的に評価されて、観客を映画館に呼び寄せ、映画の黄金時代を作った。
映画が産業として大きくなると、大学出の人々が押しかけ、学歴が高くないと映画界に入れなくなった。映画会社が大学卒を監督の条件にするようになったのは、昭和10年代頃からで、それ以降に入社した監督たちは、それほど世界的に名を轟かしてはいない。そして映画の斜陽化が始まった。
高学歴者が押しかけるようになると、その産業は活力と創造性を失って、斜陽化するというのが、ひとつのパターンである。
産業を食いつぶす「インテリ」
ある作家がいった。
「はるか古代、1人の男が地面に1粒の麦をまくと、秋に300粒の麦ができることを発見した。この大発明で農耕という産業革命が起こった。生活が安定して、豊かになり、農民は麦に感謝しながら畑を耕した。しばらくして、麦が余るほどできるようになると、帳面片手に作付面積を調べて歩く男が登場して、その畑を管理するようになった。この男たちは、麦を作る労働を知らずに、手を汚さないので、麦への愛着がない。これがインテリである。
やがて彼らが麦だけでなく、麦を作る農民も管理し、支配するようになった。そして手っ取り早く麦を手に入れるために、でき上がったよその麦を奪うことを考え出した。戦争の発明である。おかげで麦の畑も麦を作る農民も疲弊してしまった。これが文明と呼ばれるものだ」
儲かる業種が生まれると、甘い砂糖に群がるようにインテリが集まる。そして、製品と産業に愛着のないインテリが、その産業を食いつぶす。仕事に愛着を持つ人は、それが暴走の歯止めになるのだが…。
「エリート」に生まれた悲劇
映画といえば、最近の俳優には親譲りの二世が増えた。もっとも芸能界ばかりじゃなく、政治家や経営者にも、昔から「二世」が多い。
それで思い出すのが江戸時代の世襲制だが、これも捨てたものではない。武士は人の上に立つ存在で、生まれついてのエリートだが、そのかわり民衆に対して責任をとらされた。「武士にあるまじき行為」をすれば、即、切腹。エリートだけに厳しい責任感を強いられたのである。
たとえば佐賀の鍋島藩では、こんな話がある。ある侍が、外出中に腹をこわして近くの家のトイレを借りた。もう漏れそうなので、その家の若い女房の側に袴を脱ぐと、急いでトイレに走り込んだ。そこへ亭主が戻ってくると、女房の横に脱ぎ捨てた袴。「不義密通!」と役所へ訴えた。
その判決は、「緊急の時であっても、他人の妻のそばで袴を脱ぐとは武士にあるまじき粗忽な行為。不義密通同様である」。結局、侍は切腹させられた。
昔の武士は、生まれついてのエリートだけに、厳しく自分を律しなければならなかった。二世の皆さんも、同様にそこはそれで厳しいものがある。
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