弁護士もビジネスモデルの転換が必要
結局、何度か国税庁に問い合わせて、担当課長補佐に教えてもらうことができました。これがじつに明快に、「第○条のここに、このように書かれているので、そのケースであればBに該当し、税率は○%になります」と答えてくれた。
このとき、M&Aに限らず、弁護士として仕事をしていくうえで、税法を知ることは絶対に必要だと強く感じ、税務専門の弁護士になろうと決意したのです。
しかし、税法を深く理解しようと考える弁護士は非常に少ない。その状況は未だに変わっていません。
国家資格を持った弁護士・税理士を対象にした「税務調査士」という民間の認定資格を作った背景には、本当の意味で税務実務にくわしい専門家を育成したい、という思いもあります。
2008年9月に起きたリーマン・ショックによって、法曹界も大きな影響を受けています。多くの企業で、あからさまな法務コストの削減が始まったのです。
一方で、司法制度改革によって弁護士人口が急増しています。主要業務である訴訟件数は横ばいから微減傾向なので、このまま弁護士の数だけが増えていけば、過当競争になることは免れない。
既に司法の世界でも、価格競争の兆しが見え始めています。
いまの法曹界は、司法を中心とした従来のビジネスモデルを見直すべき岐路に立っていると考えています。
顧客は司法の外にいる!
――具体的にはどういったビジネスモデルが考えられるのでしょう。
経営学者のドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造である」といっています。
この「企業」を「弁護士」に置き換えてみたとき、我々弁護士には何ができるのか、と考えてみました。
弁護士にとって「顧客」とは誰だろう、どこにいるのだろう、と。
そもそも弁護士は、司法こそが仕事だと思い込んでいる節があります。しかし訴訟というのは、見方を変えればビジネスの「失敗例」ですよね。ビジネスのほとんどは、訴訟になる「以前」のところで営まれているし、そこで完結したいはずですから。
税務実務にしても、納税者の立場から考えると、本来は、訴訟以前で完結されるべきものです。
じつは「訴訟以前」という司法の外にこそ、ビジネスを行うための”錦の御旗”となる法律家として、弁護士が必要とされる市場が広がっている、と私は考えています。
訴訟にならないまでも、申告漏れで課税当局から重い追徴金を課されたり、証拠書類の不備から本来持っていたはずの権利が認められなかったり、ビジネスには日常的に様々なリスクが潜んでいます。
そうしたリスクには、必ず“兆候”というものがある。
弁護士のスキルを使えば、リスクが生じる兆候を察知し、トラブルを回避するための手段を講じることができます。