二宮金次郎に学ぶ〝人の用い方〟
ドラッカー曰く、
マネジメントの定義はひとつしかありえない。それは、人をして何かを生み出させることである
まさにその通りで、企業が持続的に成長するためには、トップがうまく人を用いるしか道はないのだ。しかし、ビジネスの世界で、人のマネジメントほど難しいこともない。
では、人を用いることに長けているリーダーは、どのような手法をとっているのだろうか。意外と思われるかも知れないが、筆者はそのモデルとして、二宮金次郎をあげたい。
江戸末期に生きた二宮翁は、刻苦勉励の人というイメージが強いが、その実は地域再生の達人であった。二宮翁は、600を超える地域の再生に成功したといわれるが、その仕法は、例外なく、真面目に頑張っている村人を表彰するところからスタートさせている。
そのやり方がいい。表彰者の選定は、村人相互の投票によって行うというのだ。
上位の得票者には、鍬、鋤、鎌等々の農機具を与え、ときには無利息のお金を貸したりもしている。
なぜ、行いの悪い村人を諭さないで、真面目に頑張っている人を表彰するのかと、弟子に聞かれた金次郎は、次の『論語』の一節をあげて答えている。
正しい人たちをひきたてて、邪な人々の上にくらいづけたら、邪な人も正しくさせることができる
評価すべき「人」を見定め、正当に評価する
二宮翁は、緻密な再生計画をつくるが、実践するのは、その土地に住む人々だ。いかに計画がすぐれていても、人が動かないのでは復興はあり得ない。
二宮翁が、事業再生の名人たるゆえんは、この人を活かして使うところにあると、筆者は考えている。
金次郎の「ピープルマネジメント」の素晴らしさは、いたるところで見ることができる。明治のキリスト教徒内村鑑三は、その著書『代表的日本人』で、二宮金次郎を紹介しているが、そのなかに次のような記述がある。
労働者のなかに、年老いて一人前の仕事はほとんどできない男がいました。この男は、終始切り株を取りはぶく仕事をしていました。その作業は骨の折れる仕事であるうえ、見栄えもしませんでした。男はみずから選んだ役に甘んじて、他人の休んでいる間も働いていましたが、たいして注目もひきませんでした。
ところが、わが指導者の目はその男の上にとまっていました。ある賃金支払日のこと、いつものように、労働者一人一人、その成績と働き分に応じて報酬が与えられました。そのなかで、もっとも高い栄誉と報酬をえる者として呼びあげられた人こそ、ほかでもなく、その『根っこ掘り』の男だったのです。一同びっくりしました。なかでもだれよりも驚いたのはその男自身でありました。
男は通常の手当てに加えて15両(約75ドル)授かることになりました。労働者の稼ぎが、やっと2セントであった時代だから、破格の金銭でした
根っこ掘りの男はかたく辞退したが、金次郎は、
「おまえが切り株を取りはぶいたお蔭で、邪魔者は片づけられ、われわれの仕事はたいへんしやすくなった。お前のような人間に褒賞を与えなかったら、わが前途にある仕事を、とうてい遂行することはできないだろう」
といって、15両を与えたという。
評価を明確にし、心に訴えかければ、人は動く
開墾をスムーズに成し遂げようとすれば、何よりも切り株の取りはぶきをスピーディにやらなければならない。しかし、骨の折れる仕事を率先してする人材はそうそういない。しかし、『根っこ掘り』が高く評価されるとなれば、おのずと志願者も増えるというものだ。
「人は評価基準に従って行動する」といわれるが、二宮翁は、まさに評価基準を明確にすることで、人をうまく用い、事業を成功に導いていったのである。
金次郎は、いずれの地域でも村民を入れ替えたわけではない。それまでの怠楕なのも、今日の勤勉なのも同じ村人なのに、金次郎が来てからは、様変わりして復興していく。金次郎は人の心に訴えかけることで、村人のやる気を引き出していったのである。
働く人の意欲は、リーダー次第だということでもある。
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