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やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第15回(最終回)

上司次第で部下は変わる! 善くも悪くも…

[ 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰)]

企業が持続的に成長していくためには、人をうまく用いるしか道はない。本連載の最後に、人のマネジメントの名人・二宮金次郎翁の逸話を紹介しよう。働く人の意欲を引き出すのも萎えさせるのも、結局はリーダー次第なのだ。

やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第15回

二宮金次郎に学ぶ〝人の用い方〟

 ドラッカー曰く、

 マネジメントの定義はひとつしかありえない。それは、人をして何かを生み出させることである

 まさにその通りで、企業が持続的に成長するためには、トップがうまく人を用いるしか道はないのだ。しかし、ビジネスの世界で、人のマネジメントほど難しいこともない。

 では、人を用いることに長けているリーダーは、どのような手法をとっているのだろうか。意外と思われるかも知れないが、筆者はそのモデルとして、二宮金次郎をあげたい。

 江戸末期に生きた二宮翁は、刻苦勉励の人というイメージが強いが、その実は地域再生の達人であった。二宮翁は、600を超える地域の再生に成功したといわれるが、その仕法は、例外なく、真面目に頑張っている村人を表彰するところからスタートさせている。

 そのやり方がいい。表彰者の選定は、村人相互の投票によって行うというのだ。
 上位の得票者には、鍬、鋤、鎌等々の農機具を与え、ときには無利息のお金を貸したりもしている。

 なぜ、行いの悪い村人を諭さないで、真面目に頑張っている人を表彰するのかと、弟子に聞かれた金次郎は、次の『論語』の一節をあげて答えている。

 正しい人たちをひきたてて、邪な人々の上にくらいづけたら、邪な人も正しくさせることができる

評価すべき「人」を見定め、正当に評価する

 二宮翁は、緻密な再生計画をつくるが、実践するのは、その土地に住む人々だ。いかに計画がすぐれていても、人が動かないのでは復興はあり得ない。
 二宮翁が、事業再生の名人たるゆえんは、この人を活かして使うところにあると、筆者は考えている。

 金次郎の「ピープルマネジメント」の素晴らしさは、いたるところで見ることができる。明治のキリスト教徒内村鑑三は、その著書『代表的日本人』で、二宮金次郎を紹介しているが、そのなかに次のような記述がある。

 労働者のなかに、年老いて一人前の仕事はほとんどできない男がいました。この男は、終始切り株を取りはぶく仕事をしていました。その作業は骨の折れる仕事であるうえ、見栄えもしませんでした。男はみずから選んだ役に甘んじて、他人の休んでいる間も働いていましたが、たいして注目もひきませんでした。

 ところが、わが指導者の目はその男の上にとまっていました。ある賃金支払日のこと、いつものように、労働者一人一人、その成績と働き分に応じて報酬が与えられました。そのなかで、もっとも高い栄誉と報酬をえる者として呼びあげられた人こそ、ほかでもなく、その『根っこ掘り』の男だったのです。一同びっくりしました。なかでもだれよりも驚いたのはその男自身でありました。

 男は通常の手当てに加えて15両(約75ドル)授かることになりました。労働者の稼ぎが、やっと2セントであった時代だから、破格の金銭でした

 根っこ掘りの男はかたく辞退したが、金次郎は、

「おまえが切り株を取りはぶいたお蔭で、邪魔者は片づけられ、われわれの仕事はたいへんしやすくなった。お前のような人間に褒賞を与えなかったら、わが前途にある仕事を、とうてい遂行することはできないだろう

 といって、15両を与えたという。

評価を明確にし、心に訴えかければ、人は動く

 開墾をスムーズに成し遂げようとすれば、何よりも切り株の取りはぶきをスピーディにやらなければならない。しかし、骨の折れる仕事を率先してする人材はそうそういない。しかし、『根っこ掘り』が高く評価されるとなれば、おのずと志願者も増えるというものだ。

 「人は評価基準に従って行動する」といわれるが、二宮翁は、まさに評価基準を明確にすることで、人をうまく用い、事業を成功に導いていったのである。

 金次郎は、いずれの地域でも村民を入れ替えたわけではない。それまでの怠楕なのも、今日の勤勉なのも同じ村人なのに、金次郎が来てからは、様変わりして復興していく。金次郎は人の心に訴えかけることで、村人のやる気を引き出していったのである。

 働く人の意欲は、リーダー次第だということでもある。

▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
著者 : 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰) 1950年奈良県に生まれる。企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社、新しい経営者像の会(理事長・石山四郎)を経て、1979年に「竹村健一未来経営研究会」を企画設立し事務局長に就任。1986年に独立後はフリーランスのライターとして、企業経営、地域活性化の現場を歩き、取材を重ねる。現在は『元気塾』(経営者を対象)と『実践経営塾』(これから経営を担う人が対象)を主宰し、元気印の企業が増えることを願って活動中。
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