大ヒットした「樅の木は残った弁当」の秘密
企業が、持続的に成長するうえで大事なのは、組織ぐるみで知恵を出し続け、それを行動に移すことだ。とはいっても、筆者は高度な知恵が求めているわけではない。
必要なのは、
「どうすれば、もっとお客様は喜んでくれるのか」
「どうすれば工期を短くできるのか」
——等々、仕事上の知恵だ。
事例をひとつ紹介しておこう。これは、実に他愛のない話だが、それでいて、実に示唆に富んでいると筆者は考えている。
いまは亡き山本周五郎さんの作品に『樅の木は残った』というものがある。この小説は、昭和45年にNHKで大河ドラマ化された。
いまでも大河ドラマと縁のある土地には観光客が殺到するが、当時の影響力は現代の比ではなかった。舞台は仙台だ。放送直後から、仙台に観光客が殺到したのだが、この人たちを相手に、駅弁屋が「樅の木は残った弁当」を売って大儲けしたという。
では、駅弁はどのようなものだったのか?
なんのことはない、普通の幕の内弁当に“樅の木の小枝”を入れてあっただけなのだ。樅の木の小枝は食べられないだけに、食べ終わった後、弁当箱に「樅の木は残った」というわけだ。
そんなことで…と思われるかも知れないが、この弁当が大ヒットしたのだ。
ただ、これはブームに便乗して売れた弁当だけに、やがて売れなくなると考えて、ヒットしている間に次の商品を準備しておかないといけないのだが、ここで指摘しておきたいのは、そうした知恵を侮ってはいけないということ。
ちょっとした知恵の積み重ねが成長の原動力になると考えるべきなのだ。
知恵で商機を広げたアイデア社長
なぜ知恵が大事なのか。大きくはふたつ理由がある。
ひとつには、仕事上の知恵なら無限にでてくるということ。人間には無限の可能性があるというが、労働は有限だ。過剰な労働は労基署からお叱りを受けるだけでなく、従業員の心身の健康にも悪い影響を与える。
ところが、知恵は無限の経営資源なのだから、これを活かさない手はないということだ。
筆者が見聞したちょっとした知恵を紹介しておこう。
バレンタインデー用の商品を売り出した会社があった。その商品は、バレンタインデーが終われば、値下げしても売れるかどうかわからない。
ところが、ある文句を書いたシールを1枚貼るだけで、その商品をバレンタインデー以後、通常の売価で売った男がいる。
そのシールには、「遅れてごめんね」と書かれていた。
単純なアイデアかもしれないが、そのシール1枚で商品が生まれ変わり、値下げをしなくても現実に売れたというのだから素晴らしいではないか。
クリスマスシーズンには、クリスマスをイメージした飾りつけをする。しかし、それはクリスマスまでの命だ。なんとかその装飾を12月25日以降も活かせないかと考えた男がいた。今度は垂れ幕作戦で、その装飾をお正月まで延長して使ったという。
その垂れ幕には、「お正月までクリスマス」と書かれていたというのだから、見事というほかはない。
アベノミクスより知恵ノミックスが不況業種を救う
ふたつめには、みんなで知恵を出し、それを行動に移せば、景気不景気、業種業態に関係なく、顧客の支持を得ることができるからだ。一番の例としては、北海道旭川市の「旭山動物園」をあげることができる。
いまでこそ年間300万人を越える入園者を集め、マスコミでも頻繁に紹介され、映画にまでなった「旭山動物園」だが、おおよそ20数年前までは、年間30万人弱の入園者しかいず、存立そのものが危ぶまれていた。
そんな「旭山動物園」がかくも入園者を増やすことができたのはなぜなのか。
パンダのような集客力のある動物を連れてきたわけではない。従来からいた動物を、動物本来の生態がもっともよく表れる「行動展示」という見せ方をすることで蘇ったのだ。
動物園は構造不況業種の最たるものだったが、「行動展示」という知恵によって生まれ変わり、人気を博すようになった。
これが、知恵の素晴らしいところなのだ。
- ▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
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