部下は上司の〝評価基準〟に応じて行動を変える
組織力を高めるうえで注意しないといけないのが、評価のあり方だ。
チームプレーが大事だと考えるのなら、評価基準を変えないといけない。評価基準が、個人のアウトプット重視のままなら、社員はどうしても個人プレーに走ってしまう。
評価システムを改めることで、組織を強くしたいい例に、1999年、2000年にパリーグを制したプロ野球球団ダイエーホークスがある。当時、球団副社長を務めていた高塚猛は、連続優勝の原動力になったのは、なんと評価基準の見直しだという。
高塚は、野球は素人だが、綿密にデータを見ていて気づいたことがあった。それは、ランナーが一塁にいる時にチーム打率の低さと盗塁の成功率の高さだった。
チームの平均打率は2割6分程度なのだが、一塁にランナーがいるときは2割程度だった。一方、盗塁の成功率は7割と高かった。
とするなら、一塁にランナーがいるときは、積極的に盗塁するほうが、二塁に行ける可能性は高い。
しかし、問題はあった。盗塁の成功率は高いのだが、絶対数が少ないのだ。
なぜなら、選手は疲れることを嫌って果敢に盗塁を企てることをしなかった。そのうえ失敗でもしようものなら、ファンから罵声を浴びせられてしまう。
それゆえ、成功の可能性の高いときにしかトライしないのだ。
どうすれば、盗塁にチャレンジする数を増やせるのか?
考えに考えを重ねた結果、高塚は成功率が5割を超えた場合には、チャレンジ数を盗塁と同等に評価するとした。
さらに、ランナーが一塁にいるときの打率の低さを改善するためにも評価を変えている。ランナーを得点圏に進塁させ、そのランナーが得点すれば、進塁打を打った選手に、打点を上げたのと同じ評価をするとしたのだ。
200本のホームランよりも「チームに貢献するプレー」
結果は、どうだったのか。
評価基準を変えた1999年には、前年度57だった盗塁が97に増え、ランナー一塁のときのチーム平均打率は、なんと3割2厘となり、平均打率は前年程度の2割6分1厘に過ぎなかったが、優勝を手にしている。
高塚は、盗塁は失敗してもチャレンジすることに価値があるともいう。
盗塁の素振りを見せるとピッチャーにプレッシャーがかかり、ヒットの確率が高まり、失敗した場合には、ピッチャーは気が緩んで、次の打者に打たれる可能性が高いというデータがあった。それゆえ、高塚は、積極的に盗塁にチャレンジさせる評価基準に変えたのだ。
2000年は、平均打率2割6分3厘、ホームラン129本で優勝したのだが、翌年は、平均打率2割7分3厘、ホームラン206本と前年以上の打撃成績を上げながらも優勝できなかった。
なぜなのか。
2年連続優勝すれば、人気も出てくるし給料も上がってくる。勢い個人プレーが目立つようになった。盗塁、進塁打が減って、チームが機能しなかったというのだ。
人間は、評価基準に応じて行動するという。チームプレーが大事と考えるのなら、自らを犠牲にしてチームに貢献するプレーを高く評価しないといけない。
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