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やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第8回

「1+1>2」のチーム力で限界を打ち破れ

[ 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰)]

5人が力を合わせて5人以上の仕事を成し遂げてこそ、組織で仕事をする意味がある。だが、現実には逆のケースが圧倒的に多いようだ。管理職の多くが「部分最適」志向からなかなか脱却できないのはなぜか? そこにこそ、組織の力を最大限に発揮するチームづくりのヒントがある。

やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第8回

5人で5人分の仕事をするなら会社はいらない

 前回までは、やる気を高める方法や人材育成のあり方について書いてきたが、首尾よく人材が育ったとしても、そこで満足していてはいけない。
 個々の力を組織の力として束ねていくことができなければ、企業とはいえないのだ。

 組織はなんのために存在しているのか。

 さまざまな考えがあるだろうが、筆者が共感を覚えるのは、「組織は、普通の人が集まって大きな仕事を成し遂げるためにある」というものと、「全体は部分の総和を超えないといけない」とする考えだ。

 5人いて5人分の仕事をするのであれば、組織を作る必要はない。

 5人いないとできない仕事、5人力を合わせると大きな成果が期待できる仕事に取り組めば、全体は部分の総和以上になり、大きな仕事を成し遂げることができるはず…なのだが、現実には逆のケースが圧倒的に多い。

 ここでは、筆者の体験から話をすすめたい。

 舞台は、ある中小企業の営業会議だ。この会社にはA、B、Cと3課の営業チームがある。3課合同会議の席で筆者は、瞬時に答えてほしいとの前提で、Aのチームリーダーに次のような質問を投げかけた。

「今日、ルーティンワークをするとあなたのチームの売上が10万円あげられる。違う働きをすれば、他のチームの売上が100万円あがる可能性がある。あなたはどちらの仕事を優先するか」

 このときのAのチームリーダーの答えは、

「会社には申し訳ないと思うが、自分のチームの10万円優先したい」

 というものだった。Bのチームリーダーも同じ答えだった。
 Cのチームリーダーは、「他のチームの100万円」と答えたが、あとで聞いてみると、「本音は、自分のチームの10万円」だったという。

 会社のトップにすれば、たとえ他チームの売上になっても、100万円の仕事を優先するのが当たり前だ。それだけに、A、B2人のチームリーダーの考えを受け入れるわけにはいかないと思うかもしれないが、それは違う。

 組織というものは、ちゃんとした指針がなければ、この2人のようなリーダーを生み出してしまうものなのだ。

「全社最適」のモノサシで社員を評価しているか?

 組織が機能するためには、チームごとの役割分担が明確でなければならない。また、チーム内でも個人個人の役割が決まっていないと機能しない。
 さらには、個人のアウトプットが評価の対象となっているケースが多い。こんな組織では、組織のトップが口では、全社最適が大事といっていても、現場では個人最適になってしまうものなのだ。

 まず考えないといけないのは、「部分最適の組み合わせが必ずしも全体最適にならない」ということ。

 たとえば、経理、営業、生産の各部門が、それぞれ別々に業務改善策を考えたとしよう。
 どんな企業も、いくつかの部門があれば相互に作用し合っているもの。それだけに、経理にとって最善の策が、営業、生産にとっては足かせになるケースが出てくるのだ。

 では、どうすれば組織の力を最大限に発揮することができるのか。

 まず、トップ自らが、自分ひとりの力には限界があること、また社員1人ひとりの力にも限界があることを理解しないといけない。また、その限界を打破するのには、組織の力しかない、と考えて企業経営に取り組む必要がある。

 ワンマン、わがままな経営者のイメージが強い、スティーブ・ジョブズが次のような言葉を残している。

僕のビジネスモデルはビートルズだ。4人の男がお互いの悪い部分をうまく抑えあっている。それでバランスが取れて、ただ4人の能力を集めたよりもはるかに大きな相乗効果が生まれた。僕はビジネスも同じだと思っている。ビジネスでも偉大なことは決してひとりでは成し遂げられない。チームで成し遂げるんだ。

 こういう思いを持てるトップが、組織の機能を最大限に発揮させることができるのだ。

▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
著者 : 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰) 1950年奈良県に生まれる。企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社、新しい経営者像の会(理事長・石山四郎)を経て、1979年に「竹村健一未来経営研究会」を企画設立し事務局長に就任。1986年に独立後はフリーランスのライターとして、企業経営、地域活性化の現場を歩き、取材を重ねる。現在は『元気塾』(経営者を対象)と『実践経営塾』(これから経営を担う人が対象)を主宰し、元気印の企業が増えることを願って活動中。
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