アイアコッカが実践した「部下の意欲を高める唯一の方法」
働く人たちが、やる気をなくす要因はどのようなものなのか。人によって違いはあるだろうが、大きくは以下の3つに集約されると思う。
職場において、上司から声をかけられないとかコミュニケーションが取れない状況が続くと、自分の存在が否定されたように思い、徐々にやる気はうせていく。
②人格を否定される
問題点を指摘し、叱ることはあってもいいが、そのとき、「どんな育ち方してきたんだ」とか「親の顔が見てみたい」といった具合に、人格を否定するような怒り方は、部下のやる気を阻害する。
③組織の問題を個人に転嫁される
組織上の問題があって仕事がうまくいかなかったとき、その責任を個人に転嫁する上司がけっこう多い。しかし、責任転嫁されたほうはたまったものではない。
では、やる気を高める要因には何があるのか。
単純には、やる気を阻害する要因の逆を考えればいい。無視するのではなく、期待し、声をかけることだ。
創業の頃の松下幸之助は、若い従業員に対して「君ならできると思うから。頼むわな」と、耳にタコができるぐらい語りかけていたと聞く。また、全盛期のフォードを率いたアイアコッカは、「部下の意欲を高める唯一の方法は話しかけること」だといっている。
20世紀最高の経営者と評価されたウェルチは、「小さな賞賛」が部下のやる気を引き出すと指摘している。
たとえば、若い営業マンが新規の仕事を5万円とってきたとしよう。「なんだ5万円か」といってしまうのと、「よくあの会社からとってきたな。これからも期待してるよ」といわれるのでは、全く違うということだ。
社員の給料を上げると会社は儲かる!
無視できないのが、「仕事にふさわしい報酬」だ。
行動心理学の世界では、意欲を高める要因には、心の満足感を求める「内発的動機」と、金銭や名誉といった外的報酬を求める「外発的動機」があるとされる。
どちらかといえば、日本人は、「内発的動機」を大事にするという。しかし、だからといって、報酬を無視していいわけではない。
性善説をとなえた孟子は、
「恒産なくして恒心なし」
ともいっている。
「安定した仕事、安定した収入がなくては、心は安定しない」との指摘だが、まさにその通りで、「欲求の5段階説」で知られるマズローの「人間は経済的安定を確保すると、その後は価値ある人生や創造的で生産的な職業生活を求めて努力する」といった考えもある。
安倍総理は、経済界に、消費を活発にするために給料を上げて欲しいと頼み込んでいる。しかし、そんな理由だけでは、経営者は給料を上げないだろう。
生活が安定すれば、働く人たちの意欲が高まり、企業の生産性が上がって、利益も出るようになるから、給料を上げるべきなのだ。
ヘンリー・フォードは、「繁栄分配計画」をとなえて、1914年に、労働時間を9時間から8時間に減らし、日給を2ドル34セントから5ドルに上げたのだが、
「これが最高の経費削減策だった」
と振り返っている。
日本では20年もの間、実質所得が増えてこなかった。経済面での安心感を与えないで、「やる気を出せ」「生産性を高めるための知恵をさせ」といっても、出てくるわけはないのだ。
- ▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
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- 第15回 上司次第で部下は変わる! 善くも悪くも…
- 第14回 長時間労働させるより部下には〝知恵〟を出させよ
- 第13回 上司は部下に何を学ばせるべきか
- 第12回 デキる上司は失敗に学び、部下の言葉にも耳を傾ける
- 第11回 社員が「自ら考え、知恵を出し、行動する」風土をつくれ
- 第10回 社員が個人プレーに走る組織は「評価基準」に問題あり!
- 第9回 デキる社員は組織と調和し、デキない社員は雷同する
- 第8回 「1+1>2」のチーム力で限界を打ち破れ
- 第7回 権力に溺れたリーダーは、部下も会社も潰してしまう
- 第6回 上司は部下を育てないのか、育てられないのか?
- 第5回 「俺に任せとけ」はよい上司か?
- 第4回 仕事を任せれば、部下は育つか?
- 第3回 部下がやる気スイッチを入れるとき
- 第2回 どこが問題? 会社の人事がダメ上司を作る
- 第1回 ダメな上司が部下の“やる気”を殺いでいる!