仕事ができるからと昇進をさせてはいけない
多くの上司が、部下のやる気を阻害しているケースが多いのだが、その責任を上司にのみ転嫁することはできない。それは、次の逸話からも理解できる。
ドラッカーが、経営幹部向けのセミナーで、「みなさんの中に無用の長物と思える部下をかかえている人は手を挙げて」と、問いかけたところ、参加者の多数が手を挙げた。
そのあと、「その人たちは新入社員のときから無用の長物だったのですか」と、続けると、ほとんどが、うなだれてしまったという。
日米を問わず、入社当初はやる気があった社員が、会社で時間を過ごすうちに、活力を失っていくのである。
この話を聞くまでは、個々の上司に問題があると思っていたのだが、それだけではないのだ。一番の問題は、人事にあると思える。
一般的に企業では、プレーヤーとして実績を残した人間を昇進(部下をもたせる)させ、管理職に登用する。これは、過去の業績を新しい地位で報いていることになるのだが、ここに問題がある。
経営の神様、松下幸之助は、「人事の名手」とも呼ばれていた。松下は、人事の要諦はと聞かれたとき、次のように答えている。
地位を与えるには、その地位にふさわしい識見がなければならない」
ちなみに、この考えは松下のオリジナルではない。そもそもは、中国の古典「書経」の中に、こうある。
この教えがもとになっているものであり、西郷隆盛の「南洲公遺訓」の第一条に引用された言葉でもある。
デキる上司ほど、部下にやる気をなくさせる
個人プレーヤーとして実績を残すスキルと、チームを率いて実績を残すスキルは違う。
プレーヤーは、専門知識と実行力があれば、成果を手にすることができる。しかし、それだけでは、「部下を活かし、育てる」という、管理職に求められる大きな使命を果たすことはできない。
この使命を果たすには、識見がないといけない、とする「書経」の考えに、松下は共鳴し、実践していたというのだ。
往々にして、優れた個人プレーヤーほど、部下のやる気を阻害するケースが多い。人は、仕事を任せられることによって育つのだが、出来る上司は、部下の仕事ぶりが歯がゆくて、「なんだ、こんなこともできないのか」といって自分でやってしまう。
これでは、部下は育たないどころか、いままで持っていたやる気までなくしてしまう。
「部下を活かし、育てる」には、どうすればいいのかを教えないままに、昇進させることの弊害は、思いのほか大きいと筆者は考えている。
- ▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
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- 第15回 上司次第で部下は変わる! 善くも悪くも…
- 第14回 長時間労働させるより部下には〝知恵〟を出させよ
- 第13回 上司は部下に何を学ばせるべきか
- 第12回 デキる上司は失敗に学び、部下の言葉にも耳を傾ける
- 第11回 社員が「自ら考え、知恵を出し、行動する」風土をつくれ
- 第10回 社員が個人プレーに走る組織は「評価基準」に問題あり!
- 第9回 デキる社員は組織と調和し、デキない社員は雷同する
- 第8回 「1+1>2」のチーム力で限界を打ち破れ
- 第7回 権力に溺れたリーダーは、部下も会社も潰してしまう
- 第6回 上司は部下を育てないのか、育てられないのか?
- 第5回 「俺に任せとけ」はよい上司か?
- 第4回 仕事を任せれば、部下は育つか?
- 第3回 部下がやる気スイッチを入れるとき
- 第2回 どこが問題? 会社の人事がダメ上司を作る
- 第1回 ダメな上司が部下の“やる気”を殺いでいる!