交際費が営業マンの福利厚生費になっている?
交際費等は会社の営業活動を支える大事な支出ですが、そのすべてを経費に算入することはできません(詳しくは1人10万円の接待ゴルフと1人5,000円で20人接待するとどちらがトク?を参照)。
法人税の実効税率が以前よりは下がっているとはいえ、広告宣伝費など他の販売促進費用よりも、交際費は確実に利益のアップを求められる経費であることには変わりありません。
1人当たり5,000円以下の飲食代なら経費になるとはいっても、落ち着いたお店で美味しいものを食べながらじっくり話をするには、厳しい値段です。ましてや接待ゴルフなどは、1人当たりの金額も張りますし、要する時間も莫大になります。
でも、ゴルフが好きな経営者は多いからなあ。ゴルフが上手な営業マンは、取引先に気に入られるし…。
そうですね。もちろん、接待ゴルフがいけないと言っているわけではありませんよ。ただし、お金も時間もかかることですから、
「それでも接待ゴルフをやることで、どれだけ効果があるか」
ということをしっかり確認できればいいのです。それをせずに、「得意先担当者や責任者がゴルフ好きだから」という理由だけで、営業マンの接待ゴルフを認めてしまうと、
「じつは、自分がゴルフをしたいために接待ゴルフを設定しているのではないか?」
という疑念も生じます。交際費というものは、得意先のためではなく、自社の担当者の福利厚生の一部になってしまう危険もあり、その効率性を徹底的に分析すべき支出であると言えます。
交際費の支出と効果(売上高の増加)を計算する
それでは、交際費の支出とその効果である売上高の増加を3パターンに分けて、考えてみましょう。
毎月3,000万円も購入してくれている上得意A社は、たくさん買ってくれるぶん、粗利が低くなっています。また、「たくさん買ってやっている」という意識が購買担当者にあるため、10万円や20万円の接待では購入額を増やしてはくれません。
30万円まで使った際に、無理に他社からの購入品を当社に回してくれたものの、それ以上は、担当者の一存では変更できない、そういう規模の取引状態を示しています。
B社は、会社の規模が小さいため、購買担当者を接待することで、当社からの仕入額を増やしてくれます。それでも、接待すればしただけ仕入額を増やしてもらえるというわけでもありません。
C社の場合は、もともと当社の製品群を利用する頻度が少ないため、接待してもそれほど取引は増やしてもらえません。
上表をもとに、接待費の額の増加と粗利の増加分を下表に抜き出してみましょう。
A社の場合、交際費を20万円から30万円に増やしたときには、24万円粗利が増えています。
だけど、30万円から40万円に増やしても、粗利は12万円しか増えていないね。
つまり、「使った交際費の倍額以上の利益を出す」という原則からすると、失格になります。
では、30万円までなら接待したほうがよいのかと言えば、接待費を0円から20万円まで増やしたときには、粗利額は増えませんでした。結局、交際費を30万円使っても、粗利は24万円しか増えないのだということになります。
A社には、交際費を使う効果がほとんどないということか。
A社は、担当者の裁量ではなく、企業全体の意思として取引をしているのだから、他社に負けない良質な製品の開発や迅速な納品などの総合力で勝負しないといけないということなのでしょう。
これに対して、B社では、交際費の額が増えるごとに反応度は落ちていくものの、40万円までは接待したほうが、売上が増えて、粗利が増えることがわかります。ですが、40万円を50万円に増やしても、増えた交際費と同額の粗利しか増えないので、これではダメなことがわかります。
最後のC社は、いくら接待しても、当社から買う物がもともとない会社だと考えるべきなのでしょう。
つまり、交際費を使うときは〝使うべき相手〟を見極めることが大事なんだね。
そのとおり! また、当社の製品・商品の強み・弱みによっても、違ってくるはずです。
しかし、得てして、A社のような大口得意先に接待をして、攻めることで売上増が見込めるB社のことが後回しになっていたりするものです。
もちろん、実際のビジネスにおいて、設例のような型どおりの変化があるわけではありません。接待が効く客先担当者もいるでしょうし、むしろ〝そういうこと〟が嫌いな担当者もいるかも知れないからです。また、こうした変化があるにしても、モデルどおりに数字が具体的に把握できるわけでもありません。
それでも、このような〝雰囲気〟を体感して、営業戦略を決めることが大切だと思われます。
- ▼連載「会計士が営業に教えたい「交際費」の話」