損益計算書から見る営業コスト
前回は、営業マンを1名雇うのに、会社がどれくらいのコストをかけているかを見ましたね。覚えていますか?
人件費や社会保険料、定期代などに加えて、経理の仕事の増加分など目に見えない効果まで含めると、給料の3倍くらいは稼がないとペイしない、という話だったね
そうでしたね。では今回は、個別の経費の積み上げ計算ではなく、会社全体の損益を表わす損益計算書から、営業マンの人件費のコストを見てみることにしましょう。
下表は、ある医薬品卸売業の損益計算書です。医薬品の卸売業は、MRと呼ばれる営業マンが大学業院や薬局を回って薬品の注文を獲得していく販売形態であり、営業マンがたいへん重要な地位を占める業界です。
これを見ると、売上は1兆6,658億円もありますが、粗利益率は8.3%に過ぎず、1,378億円が売上総利益(商品の売上代金からその仕入原価を引いた額)です。
この1,378億円から給与や法定福利費などの人件費で840億円を払っています。
売上総利益の6割以上を人件費に充てているね
営業主体の医薬品卸ですから、おそらく人件費の7~8割が営業部門に属する人の給与に関わるものではないでしょうか。
つまりこの会社では、それほど高くない粗利を積み上げて獲得した売上総利益の6割近くをも費やして営業マンの人件費に充てていることになります。
逆に「それだけの人件費を払ったからこそ、その36倍もの売上高1兆6,000万円を稼ぎ出してもらえた」といえるでしょう。
こうした卸売の業界では、営業マンは、自分の給与の2~3倍を稼ぎ、30倍以上の売上を獲得しないといけないのです。
会社がいかに営業にコストを掛けているか、よくわったよ。それだけ、営業マンの果たす役割は大きいということだね
業種を限定せずに、営業マンの役割、機能を顧客側の視点で整理すると次のようになるでしょうか。
① 「求める商品を提供する会社」を知らせてくれる
営業マン側からいうと、新規顧客の開拓。「自分が求める商品を売っている会社」を探している顧客に接触することで、よりよい商品を購入する機械を顧客にもたらす。
② 自分が知らなかった商品の使用法、利用法を知らせてくれる
商品知識を持った営業マンとの会話の中で、自分が使っている商品の新たな活用法を認識する。
③ 自分が知らなかった新しい商品を知らせてくれる
営業マンからアプローチされることで、自分にとって利便性がある商品の存在を知ることが可能になる。
④ 購入までのプロセスを手伝ってくれる
営業マンが過去の他社での導入効果のデータや商品の機能に関する説明資料を提供して、購入手続きを支援する。
近年、インターネットのホームページを充実させれば購入見込み客が黙っていても問い合わせてくるとか、バナー広告やアフェリエイトでの販売促進とか、営業マンがいなくても商品が売れるような話がもてはやされているように見えます。
しかし、こうした販売手法は、営業という世界のほんの一部分です。
インターネット通販で商品を購入するのは、「私はこういう商品が欲しい」と明確に認識できている人だけです。
もちろんホームページで商品の効能を効果的にアピールできていれば、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンを経由して購入見込み客が集まるかも知れません。しかし、上述の③や④の部分は、営業マンがいなければ実現できない機能です。
かけがえのない役割を果たしているからこそ、商品の粗利額の6割もの人件費を投入して、売上を獲得するわけです。
このように、経理の数字から分析することでも、営業部門、営業マンが果たす役割と重要性が理解できるでしょう。
- ▼連載「会計士が教える「営業マンのコスト」の話」