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会計士が営業に教えたい「予算」の話 第3回

その予算の「立て方」は適切か? ダメな「予算」は会社を傾ける

[ 佐久間裕幸<さくま・ひろゆき>(公認会計士・税理士)]

営業担当者を悩ます「予算」。けれどもその意味について、単なるノルマだと勘違いしていませんか? 会計上、「予算」にはどんな意味があるのか――。その効用をやさしく解説します。

営業に教えたい「予算」の話3

予算を超えて「売りすぎる」ことの弊害

 予算にはノルマとともに、生産計画という要素もあります。在庫の過不足はなるべく避けたいものですが、さらにいえば、売れすぎて困る場合もあります。
 たとえば仕入れ先への支払いは3か月後だけれど、売上の入金は半年先といった場合です。この例では、支払いから入金まで3か月間も待たなければなりません。

 もし他から入金がない場合、資金繰りが悪化する心配があります(実際に商品が売れすぎて倒産したという事例もあります)。

 予算には、そうした売れ過ぎによる弊害を防ぐ機能もあります。

 予算で設定されていたものを超えてたくさん売ることは、会社全体からみれば必ずしも褒められることではなく、場合によってはかえってマイナスになることすらあるのです(もちろん、予算そのものが妥当だったかどうかの検証は必要です)。

 予算を立てる際に重要なことは「見込みのない数字を立てない」ということです。つい売上は多めに、支出は少なめに立ててしまいがちですが、現状に即していないと最終的に大きなツケが返ってきます。

「見込みのない予算」を立てると赤字が膨らむ

 「背伸びをした予算」を立てるとどのようなことが起こるのでしょうか。自動車メーカーを例に考えてみましょう。

 いままで月に1,000台売れていた車がありました。予算担当者は上層部のウケをよくするため、新しい予算を月1,500台の販売と設定しました。それは500台多く売るというのはもちろん、同時にこれまでより「500台多く生産せよ」という指示でもあります。

 工場は、原材料や部品の仕入れを1.5倍に増やします。社員やアルバイト、機械を調達する必要もあるでしょう。月産1,500台の体制を確保して、製造した車がすべて売れれば、収入も利益も1.5倍です。

 しかし、現実には1,200台を売るのがやっとだった…。売れ残った300台は、「翌月に売ればいい」と思われがちですが、本来必要のない保管コストがかかります。また翌月も販売数は1,200台程度と考えると、次の生産は900台程度が妥当ですが、いったん1,500台を製造する体制をとってしまえば、人員や工場を簡単に減らすわけにはいきません。

社員を1割減らすより売上を1%上げるほうがラク

 高度成長時代は売上をただひたすらあげることが求められ、また評価されました。人口が1割増えれば100人いた客は110人に増えます。そういう時代には、誰が商売をやっても売上は自然に上がりました。

 これを「仕事ができた」とか、「実績が上がった」と錯覚してきたのが、過去の日本経済です。

 しかし、いまや日本の人口は減少しています。人口が減れば市場も小さくなります。求められるのは、100人いた客が90人に減っても、売上を10%下げない方法です。

 利益を上げるには、経費を削減することも重要ですが、売上高を上げるほうがずっと効率的です。仮に人件費を1割削っても、全体の支出からみれば数%、下手をすれば1%未満の削減にしかなりません。

 それなら売上高を1%でも伸ばすべきです。売上を1%伸ばすのと、同額の人件費を削減するのと、どちらが容易かといえば、ほとんどの企業は前者ではないでしょうか。

 売れないからといって人員を削減すると、生産能力も販売能力も落ちて、余計に商品が売れなくなります。しかも人が減っても、建物や機械といった固定資産は減らず、さらにムダが生じる悪循環に陥ります。

 人件費も含めて、経費のムダを見逃してはいけません。しかし、企業の成長に直結しているのは売上高。売上を生み出すのが営業部門です。会計ルールを守りつつ、予算達成されることを祈念しています。

▼連載「会計士が営業に教えたい「予算」の話」
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著者 : 佐久間裕幸<さくま・ひろゆき>(公認会計士・税理士) 公認会計士・税理士。佐久間税務会計事務所所長。1986年、慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。同年、公認会計士二次試験合格、大手監査法人に入所し、株式公開準備企業の監査等に従事。監査法人退職後、佐久間税務会計事務所を開設。中小・中堅企業の会計・税務の業務のほか、成長企業の公開準備支援などを行う。
http://www.sakumakaikei.com/
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