売上計上日付の改ざんは株主への裏切り行為
企業の経営上、最も単純、かつ恒常的な不正は、売上の計上日付の改ざんです(売上計上については営業マンの「売れた!」が会計上でも「売上」になるのはいつ?で解説しています)。
改ざんの理由として主に考えられるのは、売上目標を達成するため、決算日の直前に実態のない売上を立てて、決算後になってようやく納品をするといったケースです。
実質的に何かを横領したわけではないので、罪悪感のない人も多いかも知れませんが、これは明確なルール違反です。
営業担当者は見た目だけでも売上を立てようと、参加のチェーン店に「来月返品してくれればいい」と商品を押しつけるわけです。会社に損はないように見えますが、商品の送料、営業マンの人件費といったコストがムダになりますし、会社の信用も低下していきます。
本来、営業担当者は商品が売れないのなら新規開拓に走るべき。数字上、売れたことにすればいいというのは株主を裏切る行為です。
社員あるいは企業がそこまで無理をするのは、「予算」という絶対的な存在があるからです。決算がこれまでの結果をまとめたものなら、予算はこれからの予定や目標を数値化したものです。
社内に複数の部署がある企業では、全員が充分なコミュニケーションをとることは困難です。部署ごとに思惑や考え方が異なって、それぞれが違った方向を目指してしまうことは充分に予想されます。
予算の重要性を説明するために、架空の自動車メーカーを例に挙げて、シミュレーションしてみましょう。
もしも「予算」がなかったら…
このメーカーは角張った車ばかりを作ってきましたが、世間では丸みのある車が流行しています。
そこで、営業は「丸みのある車を売りたい!」と考えます。その結果、売りやすさ優先で、ラインナップのうち丸みのある車を売りまくったとします。
製造部門では、会社の目標どおりに角張った車を中心に作っています。営業が角張った車を売らないため、膨大な在庫を抱えます。また、丸みのある車は、営業が売ろうにも工場での生産数不足により納品待ちとなり、受注し損なうことになります。
このように企業は組織が肥大化すればするほど、方向性を見失いがちになります。そこで、需要や生産能力をもとに、全体が目指すべき方向を具体的に数値で示すのが「予算」なのです。
この自動車メーカーでは、ある期間に丸みのある車を1万台、角張った車を5,000台販売する計画を立てました。それに沿って製造部門は材料や部品を仕入れ、車を生産します。対して営業は販売戦略を練り、営業活動を行います。
営業からみれば「予算=ノルマ」ととらえがちですが、企業を運営していくうえで、これは必要不可欠な数値です。
たとえば予算で設定した1万5,000台の販売台数に対し、それを販売する営業は1,500人いるとします。すると1人の分担は10台という基準が明確になります。
それが曖昧なままでは、8台しか売れなくても「8台も売れた!」と満足する営業担当者もいるでしょう。
予算を立てることによって、1,500人いる営業全員に同じ基準を共有させることができるのです。
- ▼連載「会計士が営業に教えたい「予算」の話」