商品を受注しただけでは「売上」にならない
会社は決算によって一定期間の売上と支出を確定させます。それに基づき、投資家への配当や納める税金も決まります。
ここでいう売上というのは、「キャッシュの裏付け」がないと困ります。すなわち現金が既に入ってきた、あるいは確実に現金が入ってくる保証がある場合です。
営業担当者は受注の段階で「売れた!」と喜びがちですが、会計上、その段階ではまだ売上に計上できません。確実に現金が入ってくる保証を得たとはいえないからです。
とはいえ、本当に現金が入ってくるのを待っているのも時間がかかりすぎます。多くの企業が売上として計上するのは、商品を出荷した時点です。これを「出荷基準」といいます。
出荷した時点で商品の所有権が相手側へ移り、代金の請求権が発生しますから、ある程度の法律上の裏づけが得られることになります。
注意したいのは、どの時点を出荷ととらえるか、企業によってマチマチなことです。包装をした時点という企業もあるでしょうし、トラックに積み込んだ時点、工場の門を出た時点という企業もあるでしょう。
どのやり方でも客観性が求められるため、社内で基準を明確にしておく必要性があります。工場と営業で売上に計上する日が異なると、二重にカウントしたり、反対に漏れてしまったりする危険性もあります。
売上の計上基準はケースによって違う
また、特殊な技術・技能を用いて試作品を制作した場合や、プログラムを開発した場合は、「検収基準」がとられる場合もあります。これは、相手側が商品を確認し、納得して受領した時点で売上を計上するという考え方です。
コピー機やケーブルTVのように、サービスマンが訪問して設置する場合は、検収基準となります。
対照的に、顧客が自ら設置するものは、設置の有無にかかわらず発送した時点で売上とみなします。たとえばインターネットのプロバイダは、ID・パスワードを発行した時点で売上が計上できます。接続の有無にかかわらず、料金を請求する権利が発生するからです。
実際に商品が動くケースと違って、判断が難しいのが請負業務です。
建造物の場合は、完成して引渡しをした時に売上が発生します。具体的には鍵を渡したり、登記を書き換えたりした時点です。
大規模な建造物は、工期が数年〜数十年に及ぶケースもあります。そのような工事では、進捗した割合によって、計算上の売上を立てる場合もあります。また、発注元から着手金を受け取っている場合、それは「預り金/前受金」という扱いになります。担当する工事が終わった時点(役務提供完了)で売上に計上できます。
同業種でも異なる基準が使われることもありますが、社内で用いる基準がバラバラではいけません。
会計基準は会社を測るモノサシです。1枚の設計図にメートルとインチと尺が混在していたら、それを見て工事をする人は困ります。
社内でルールを決め、それを遵守することが大切です。
売上の対象 | 売上基準 | 売上の計上 | |
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商品などの販売 | 出荷基準 | 商品などを相手方へ出荷した時点。多くの企業がこの基準を採用している。 | |
引渡基準 | 商品などを相手方に引き渡した時点。受領書などをもとに帳簿を処理する。 | ||
検収基準 | 相手方が商品などを検収・確認した時点。通信情報システムなど設置してきちんと動くかどうか確かめたりする場合にはこの方法がとられる。 | ||
買掛計上基準 | 相手方が商品を検収・仕入計上し、買掛勘定に上げた時点。 | ||
回収基準 | 代金を回収した時点。割賦での販売のように代金回収までが長期間にわたる場合にとられている。 | ||
請負事業 | 引渡しを要するもの | 工事完成基準 | 目的物がすべて完成し、引き渡した時点。 |
部分完成基準 | 部分的に引渡し可能な場合が対象。ある部分を引き渡した時点でそのつど、計上する。 | ||
工事進行基準 | 完成まで数年〜数十年を要する事業が対象。決算日に工事の進行度合いに応じて。 | ||
引渡しを要しないもの | 役務提供完了基準 | 電話の基本料金などが対象。役務提供をした時点。 | |
固定資産(土地・建物・自動車など) | 引渡しのあった日。住宅の場合は鍵の受渡し、土地や車の場合は登記・登録が目途。 | ||
有価証券(株式・投資信託など) | 約定日または引渡し日を会社がルールとして選択。 |