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今週の話材「冠婚葬祭」

よく考えるとチョットおかしい?“伝統的”な結婚式&葬式の常識

[ 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター)]

宗教色を嫌い、身内や友人・知人だけのカジュアルな結婚式や葬式を希望する人が増えているそうだ。が、なんてことはない。“伝統的な”式だって、その起源をたどればそんなに由緒正しいものではなかった。

よく考えるとチョットおかしい?“伝統的”な結婚式&葬式の常識

全然オメデタクない曲で祝う日本の結婚式

 忌み言葉というのがある。

 結婚式などで「切る」「別れる」「去る」「出る」などの不吉な言葉はタブー。「はなむけの言葉」というのも、別れの言葉なのでダメ。

 ところが、式場で流れるウエディング・マーチを気に留める人はいない。さる作曲家が言う。

「ウエディング・マーチは歌劇『ローエングリン』の一節だが、どんな内容の歌劇かご存知か?

 この歌劇は、恋人同士が結ばれようとする土壇場で、娘がうっかり約束を破ったために、男が消えてしまうという悲劇。なぜ、こんな不吉な歌劇の一節を結婚式に演奏するのかわからない。しかも一流ホテルでも演奏する。どうしてだろう?」

 ウエディング・マーチだけではない。古い日本映画などを観ると、結婚式の場面で「高砂や」という歌を歌っている。この歌も、おめでたい歌のようで少しもおめでたくない。

 念のために歌の文句を書くと…。

 高砂や、この浦船に帆を上げて〜
 月もろともに出で汐の、波の淡路や島影や
 遠く鳴尾の沖すぎて、はや佳の江につきにけり〜

 「月もろともに出で汐の」と「出る」という忌み言葉まで登場している。

 しかも歌詞の意味は「九州から都見物に上る途中の旅人の歌」。全然、結婚式とは関係ない。

 この歌が、なぜか“めでたい歌”として江戸時代の中期頃から、中級から下級の武士の間で始まった。
 まさか、結婚を「航海」と「後悔」にシャレているわけでもなかろうに。

意外に新しい「神前結婚式」の起源

 最近はチャペルで結婚式を挙げるカップルも多いが、やはり日本人なら神前で…というのはじつは大きな間違い。神前結婚が、日本の伝統的な結婚式のスタイルというわけではない。

 神前結婚式の始まりは、明治 33 年( 1900 )のこと。ときの皇太子殿下(後の大正天皇)の御成婚式を記念して、東京大神宮が神前結婚式を始めた。
 これが、神前結婚の起源である。

 今から 100 年以上も昔なので、古いと言えば古いが、伝統というには新しすぎる。

 それ以前は、自宅に親類を集めて固めの盃。「高砂や〜」とやる程度で、後はもうお床入りでおしまい。身内でひっそりというのが伝統的な結婚式なのでした。

 なんのことはない、身内や友人・知人を証人として結婚式を行う「人前結婚式」のほうが、伝統的な日本の結婚式に近いスタイルなのであった。

自由民権運動家・中江兆民が始めた「告別式」

 お葬式も変わった。

 「通夜」があって、「葬儀」があって「告別式」があるが、告別式と葬儀を混同していることが多い。

 このふたつ、本来は別のもので、結婚式と披露宴が違うのと同じぐらい違う。

 葬儀は、宗教的な儀式で個人の宗旨にのっとって行われる。

 場所は個人の自宅。仏式なら僧侶を、神式なら神官を呼んで家庭で行う。参加するのは家族・親類や親しい人たちだけ。

 告別式のほうは、知人たちと告別をするためで、これは非宗教的な儀式。僧侶も神官も呼ばずに、寺院や葬儀場などの大きな会場で行う。

 宗教色のない儀式なので、読経の代わりに名士の弔辞が読まれたり、哀悼演説があったりする。

 弔辞は、葬儀の読経の代わりなのだ。

 そもそも告別式に、そんなに古い歴史はない。告別式を行った第1号は、明治の自由民権運動家で知られる中江兆民。明治31年(1898)のことである。

 それ以来、東京の名士の間で告別式が行われるようになった。大正十年代にはけっこう普及して、この新風習を当時の評論家たちが嘆いている。

 非宗教的な儀式だった告別式も、今はその精神が葬り去られて、ただの葬儀の別名となった。わずか100年余りで変わってしまうものだ。

▼「今週の話材」
著者 : 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター) 1949年、神奈川県に生まれる。日本大学芸術学部映画学科で映画理論を専攻。放送作家を経て、『やじうま大百科』(角川文庫)で雑学家に。「万年書生」と称し、東西の歴史や民俗学をはじめとする人文科学から科学技術史まで、幅広い好奇心を持ちながら「人間とは何か」を追求。著書に『「散歩学」のすすめ』(中公新書クラレ)、『江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた サムライと庶民365日の真実』(講談社プラスα新書)などがある。
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