2年間を上限として、担当の労働基準監督官が賃金未払いの事実を具体的に確認できた期間について、賃金の遡及支払いを勧告されます。
未払賃金の「請求権」は請求時から遡って 2 年間分
本連載の第 2 回の記事(どのような違反があると、労基署に指摘される?)でご紹介したとおり、賃金未払いの違反は、申告監督で指摘される違反の圧倒的多数を占めています。
労働基準監督官は、臨検監督に入った事業場で賃金未払いの問題を発見した場合、その事業場に対して、賃金の未払い分を過去に遡って支払うようにとの是正勧告を行います。
では、どのくらいの期間遡って未払い分を支払えと言われるのでしょうか?
労働基準法第 115 条では、「この法律の規定による賃金…の請求権は 2 年間…行わない場合においては、時効によって消滅する。」と規定されています。
つまり、企業が労働者から未払い賃金を請求された場合には、その請求のあった時から遡って 2 年間分を支払わなければならない(それよりも前の賃金については時効によって消滅する)という法律の建付けになっています。
それでは、労働基準監督署の是正勧告でも「2 年間分遡って支払え」と言われるのかというと、実はそうとも限りません。
ケースに応じて分割払いや遡及期間の短縮が認められることも
この点に関して、通達では、
「賃金又は工賃の不払に係る法違反については、監督時において不払額を具体的に確認した範囲内(2年間を限度とする。)の期間について、遡及是正の勧告を是正勧告時に併せて行うものとする。」
(昭和 63 年 3 月 16 日付基発 159 号)
とされており、実際に、違反が確認できた範囲内で是正勧告を行うという運用がとられています。
したがって、是正勧告書の記載については、遡及期間を 3 か月や 6 か月など比較的短期間とするもの、賃金請求権の消滅時効期間と同じく 2 年間とするものなど、事案によって様々です。
万一、長期間の遡及支払いを勧告された場合で、それに対応することが経営上難しいというときは、その状況を担当の労働基準監督官にしっかりと説明するようにしましょう。
担当の労働基準監督官としても、企業を潰してしまっては元も子もありませんので、未払賃金の支払いについて、一括払いではなく分割払いでの対応を認める等の措置をとってもらえる可能性があります。
また、賃金未払い状態となっている労働者自身が、「遡及期間は短くても構わない」と本心から言ってくれているような場合には、是正勧告を受けた遡及期間の短縮について労働基準監督官と交渉する余地も残されていると言えます。
いずれにしても、企業としては、労働基準監督署に臨検監督に入られた場合には未払賃金について最長 2 年間の遡及支払いを是正勧告されうるという事を肝に銘じ、普段からサービス残業などをさせない企業体制を整えておくことが重要です。
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