働きながら妊娠を経験した女性の5人に1人がマタハラを経験
マタニティ・ハラスメント(以下「マタハラ」と言います)という言葉は、学術的に定義されているものではありません。日本労働組合総連合会(以下「連合」と言います)では、マタハラを「働く女性が妊娠・出産を理由とした解雇・雇い止めをされることや、妊娠・出産に当たって職場で受ける精神的・肉体的なハラスメント」と定義しています。
連合が実施した「働く女性の妊娠に関する調査」(2015年2月23日)によると、妊娠時に職場で、妊娠・出産やそれに伴う体調不良をきっかけにした不利益な取扱いや嫌がらせを受けたかという質問に対し、働きながら妊娠した経験がある女性の5人に1人(20.9%)が嫌がらせなどのマタハラを受けたことがあると回答しています。
不利益を受けた内容としては、
- 口頭などで嫌がらせを受けた(9.8%)
- 解雇、契約更新をしないなどの対応をされた(7.8%)
- 降格、重要な業務をまかせてもらえない、意に反して担当業務を変更するなどの対応をされた(3.3%)
などがあげられています。
筆者の受けたマタハラ相談には、直接的な解雇の相談よりも、
- 通勤事情の劣る事業所への異動により通勤が困難となり、結果として退職に追い込まれた
- 残業ができないことを理由に、正社員から非正社員へ強制的に労働契約内容を変更された
- 降格されて手当がカットされ、減給された
などの事例がありました。
最高裁は「妊娠を理由とした降格は均等法違反に該当」と判断
2014年10月23日、最高裁が出した判決が、マタハラ問題に一石を投じました。「原則として、妊娠や出産を理由とした降格は違法」というものです。
これは、病院に勤めていた理学療法士の女性が、勤続約10年で管理職となり副主任に任命されたものの、妊娠がわかって軽易な業務への転換を請求したところ副主任から降格させられ、復職後も職位復帰できず、地位確認等請求を求めた事件です。一審・二審では「降格は人事の裁量権の範囲内」として原告側の訴えを退けており、妊娠を理由とした降格が男女雇用機会均等法に違反するかどうか、最高裁の判断が注目されました。
この判決を受けて厚生労働省は、都道府県労働局に対してマタハラを防ぐための企業への指導を厳しくするように指示、また企業向けに「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」を公表しました。
時代の方向性を示すものとして、裁判所が下す判例は非常に重要な意味を持ちます。女性が子供を産み育てながら、能力を発揮できる職場をどのように整えていくか、いま、社会全体でしっかりと考えていく必要があります。