商法の一部である運送・海商法関係分野は、制定以来ほとんど改正されておらず、たとえば飛行機を利用する航空運送の規定は存在しないなど、実態に合わないものになっていました。
政府は昨年4月に法制審議会商法(運送・海商関係)部会を立ち上げ、約1年の審議を経て「商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案」を公表しました。
カタカナ文語体の条文がひらがなの口語体に改められ、トラック、船舶、飛行機等を組み合わせて荷物を運ぶ「複合運送」でも統一して適用されるルールとして整備されます。
具体的には、次のような改正が提案されています。
航空運送に関する規律
総則に運送人の定義として「陸上運送、海上運送又は航空運送の引受けを業とする者」という規定を定め、航空運送に関する規律が新設されます。
危険物を運送する際の荷主の通知義務
荷送人は運送人の請求があったとき、運送状を交付する義務がありますが、運送品に危険物が含まれている場合も、その旨を申告する義務はありません。
引火性、爆発性その他の危険性を有する物品が運送品であるときは、引渡しの前にその旨と当該危険物の品名、性質その他の安全な運送に必要な情報を通知する義務が課せられます。
運送人の損害賠償責任の消滅
運送品の損傷や、ただちに発見できる程度の一部の滅失についての運送人の損害賠償責任は、荷受人が留保せず運送賃その他の費用の支払いがなされると消滅します。この規定から、「費用の支払い」という要件が削除されます。
期間の経過による責任の消滅
運送品に関する運送人の責任は、引渡日(運送品が全部滅失した場合は引き渡されるべき日)から1年以内に裁判上の請求がなされないと消滅します。
国際海上物品運送法では、運送品の滅失等による損害が発生したときに限って、当事者の合意による期間の延長ができるとされており、商法でも同様の取扱いになります。
船長の責任を軽減
船長は職務を行なうことについて注意を怠らなかったと証明しない限り利害関係人に対して損害賠償の責任を負う、船籍港外で船舶が修繕不能に陥った場合に競売することができる、等の規定が削除されます。
現在は船長は従業員の1人に過ぎず、現行法上の広汎な権限と過大な責任が実態にそぐわない点を受けての見直しです。
海洋環境の保全に係る特別補償の請求権
海洋汚染をもたらす船舶の救助をした場合、救助料とは別の一定の特別補償を請求できる権利が新設されます。
このほか、国際海上物品運送法やモントリオール条約(国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約)等との整合性を図る権利関係の見直し等が行なわれます。
政府はこの試案について広く意見を募り、その結果を踏まえて 2016 年の法改正をめざすとしています。