5人で5人分の仕事をするなら会社はいらない
前回までは、やる気を高める方法や人材育成のあり方について書いてきたが、首尾よく人材が育ったとしても、そこで満足していてはいけない。
個々の力を組織の力として束ねていくことができなければ、企業とはいえないのだ。
組織はなんのために存在しているのか。
さまざまな考えがあるだろうが、筆者が共感を覚えるのは、「組織は、普通の人が集まって大きな仕事を成し遂げるためにある」というものと、「全体は部分の総和を超えないといけない」とする考えだ。
5人いて5人分の仕事をするのであれば、組織を作る必要はない。
5人いないとできない仕事、5人力を合わせると大きな成果が期待できる仕事に取り組めば、全体は部分の総和以上になり、大きな仕事を成し遂げることができるはず…なのだが、現実には逆のケースが圧倒的に多い。
ここでは、筆者の体験から話をすすめたい。
舞台は、ある中小企業の営業会議だ。この会社にはA、B、Cと3課の営業チームがある。3課合同会議の席で筆者は、瞬時に答えてほしいとの前提で、Aのチームリーダーに次のような質問を投げかけた。
「今日、ルーティンワークをするとあなたのチームの売上が10万円あげられる。違う働きをすれば、他のチームの売上が100万円あがる可能性がある。あなたはどちらの仕事を優先するか」
このときのAのチームリーダーの答えは、
「会社には申し訳ないと思うが、自分のチームの10万円を優先したい」
というものだった。Bのチームリーダーも同じ答えだった。
Cのチームリーダーは、「他のチームの100万円」と答えたが、あとで聞いてみると、「本音は、自分のチームの10万円」だったという。
会社のトップにすれば、たとえ他チームの売上になっても、100万円の仕事を優先するのが当たり前だ。それだけに、A、B2人のチームリーダーの考えを受け入れるわけにはいかないと思うかもしれないが、それは違う。
組織というものは、ちゃんとした指針がなければ、この2人のようなリーダーを生み出してしまうものなのだ。
「全社最適」のモノサシで社員を評価しているか?
組織が機能するためには、チームごとの役割分担が明確でなければならない。また、チーム内でも個人個人の役割が決まっていないと機能しない。
さらには、個人のアウトプットが評価の対象となっているケースが多い。こんな組織では、組織のトップが口では、全社最適が大事といっていても、現場では個人最適になってしまうものなのだ。
まず考えないといけないのは、「部分最適の組み合わせが必ずしも全体最適にならない」ということ。
たとえば、経理、営業、生産の各部門が、それぞれ別々に業務改善策を考えたとしよう。
どんな企業も、いくつかの部門があれば相互に作用し合っているもの。それだけに、経理にとって最善の策が、営業、生産にとっては足かせになるケースが出てくるのだ。
では、どうすれば組織の力を最大限に発揮することができるのか。
まず、トップ自らが、自分ひとりの力には限界があること、また社員1人ひとりの力にも限界があることを理解しないといけない。また、その限界を打破するのには、組織の力しかない、と考えて企業経営に取り組む必要がある。
ワンマン、わがままな経営者のイメージが強い、スティーブ・ジョブズが次のような言葉を残している。
僕のビジネスモデルはビートルズだ。4人の男がお互いの悪い部分をうまく抑えあっている。それでバランスが取れて、ただ4人の能力を集めたよりもはるかに大きな相乗効果が生まれた。僕はビジネスも同じだと思っている。ビジネスでも偉大なことは決してひとりでは成し遂げられない。チームで成し遂げるんだ。
こういう思いを持てるトップが、組織の機能を最大限に発揮させることができるのだ。
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