税務調査で従業員による横領が発覚!
ある会社での出来事です。
会社に国税局の税務調査が入り、従業員が不正取引で得た売上金を着服していたことが発覚しました。従業員は会社の経費を使って商品を仕入れ、それらを正規とは別ルートで転売し、売上金5,000万円を会社に入金せずに着服していたのです。
着服されていた5,000万円は、「所得隠し」と認定されました。残念ながら、会社は国税局が税務調査に入るまで、この事実にまったく気づきませんでした。
嘘のような話ですが、このように税務調査がきっかけで、従業員の不正が発覚することがあります。税務調査では、当該会社の申告内容の確認のために、取引の相手方の調査を行うことがあるからです。
当然のことながら、会社は従業員に対して、着服した全額の返還を求めています。
一方、国税局は従業員が着服したとされる5,000万円について、意図的に所得を圧縮した仮装・隠蔽(いんぺい)に当たると判断し、重加算税の対象としました。
会社にとっては、まさに「泣きっ面に蜂」です。
それにしてもなぜ、横領事件の被害者である会社が、国税局によって「意図的に所得を隠蔽した」と判断されるのでしょうか。
今回の従業員の行為は、業務上横領罪に該当します。
刑法第253条には、次のように規定されています。
(業務上横領)
第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
業務上とは、「業務として行う行為」を指します。従業員が業務として行う行為の中で起こした横領事件なので、税務上は、
「会社が意図的に仮装・隠蔽した」
とみなされます。会社が直接的に仮装・隠蔽したのではないのですが、従業員が業務の中で行った行為は、「会社の行為」となるのです。
横領された5,000万円の経理処理は…
このケースの場合、会社の経理は、従業員に対する未収金5,000万円、売上計上漏れ5,000万円となります。
売上計上漏れに対する法人税などの本税、そして重加算税も負担することになります。
問題は、従業員に対する未収金5,000万円の扱いです。
当然、会社は従業員に対して損害賠償責任を追及しますが、金額が大きいだけに、分割返済になる可能性が高いでしょう。
5,000万円全額を回収できるかどうかわからないのに、経理上は5,000万円を未収金計上して税金を納めなければなりません。
また、もしも従業員に資力がなく、返済が不能の場合は、さらに取り扱いに困ります。その場合も、会社は、簡単には貸倒れ処理ができないのです。
仮にその従業員が自己破産をしても、会社に対する賠償責任はなくならないからです。
破産法によれば、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、破産しても免責になりません(破産法第253条1項2号)。
(免責許可の決定の効力等)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
2 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
会社にとって、従業員による横領事件は横領された金額だけでなく、それによって生じる税負担も大きいのです。
もしも5,000万円を着服したのが社長だったら…
以上は、従業員が不正をした場合ですが、同族会社で社長が同様のことをした場合はどうなるでしょうか。
会社の経理は、社長に対する役員賞与5,000万円、売上計上漏れ5,000万円となります。
従業員が不正をした場合は、未収金に計上しましたが、社長が行った場合は「役員賞与」となります。法人税法上、このような役員賞与は経費にならないので、やはり売上計上漏れ5,000万円になり、所得金額が5,000万円増えることになります。
そのうえ、社長個人の給与(賞与)が5,000万円増え、その分の所得税、住民税の負担も増えます。
さらに、社長が故意に仮装・隠蔽を行っていますから、脱税犯(法人税法違反、所得税法違反)として刑事訴追されるかもしれません。そうなれば、社会的信用は失墜し、会社が被るダメージは計り知れません。
このように、犯罪行為に対して、税務は厳しい対応をします。
管理体制をきちんとして、正しい申告納税をしよう
犯罪行為があった場合は、厳しい税務調査が行われるのは言うまでもありません。
従業員や役員の横領は、業務上横領罪になるだけでなく、税務上も会社に大きな損害を与えます。
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