「予算」は単なるノルマとは違う
営業部門が、会社から厳しく達成を求められる「予算」。けれども、その意味をきちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。営業予算、あるいは販売予算などとも呼ばれますが、これは営業目標とは違います。
「予算」は、会社を適正に動かすための重要なツールです。それが故に、営業担当者は“予算必達”を求められるのです。
なぜ、「予算」が重要なのか。それを理解するためには、まず、企業(株式会社)について考えてみる必要があります。
株式会社のルーツは、中世の地中海貿易や東インド会社といわれています。もともとこれらは、1つの事業(航海)が終わったら解散する一種のプロジェクトでした。出資者たちが集まって資本(元手)を用意し、それで船を借りて船長や船員を雇います。無事に航海を終えると、経費を差し引いた利益を出資者へ分配します。
航海が終わった時点で決算(清算)してしまう、とてもシンプルな会計処理で済みます。
ところが、航海に出た船が嵐にあって難破する場合があります。たった一隻の船が難破すれば、出したお金は一銭も返ってこないことになります。
そのリスクを回避するため、投資を継続的な事業にして、収支をトータルで考える方法が生まれます。
10倍の資本を集めて、10隻の船を出すのです。確率的には2隻が難破する恐れがあったとしても、残り8隻でその損失をカバーするだけの利益を生めばよいわけです。
今度は1回限りではなく、継続が前提の事業ですから、会計処理は航海の回数ではなく、期間で区切ったほうがわかりやすくなります。そして、現在一般的となっている営業部や経理部を常設している「企業」の形が生まれていったのです。
今日の株式会社において、中世の航海における出資者に当たるのが「株主」です。船長は社長や取締役、船員は社員といった具合に置き換えることができます。
「予算」は株主との〝約束〟
このように考えると、会社とは、お金を増やす装置であり、お金を増やすためのノウハウ(経営力)を有する取締役に株主が資金を委託しているという関係であることになります。
会社が永久に続く前提では、株主は出資したお金を回収したり、新たな株主が資金を提供したりする仕組みが必要です。それが株式の売買です。
株主が無能な経営者を解任するほどの株をもってなければ、株を手放して財産を守ります。反対に、その会社に潜在的な成長性を見いだした株主は、潜在性を引き出すだけの意見を言えるだけの株数を集めるでしょう。
その象徴のひとつが、村上ファンドやサード・ポイントなどに代表される“もの言う株主”といわれる存在です。
そもそも株式会社というのは株主のものであり、社長は株主から経営を付託された(任された)存在に過ぎません。社長以下、取締役は必要な人的・物的資源(いわゆるヒト・モノ・カネ)を使い、株主へ投資に見合った収益をもたらす責任があります。
そこで出資者や出資を考えている人たちに対して、「我々に任せていただいたお金をこれだけ増やしました」という報告をする義務があります。
一定期間ごとに集計されるその報告が「決算」と呼ばれるものであり、決算で損益を割り出すための作業が「会計」です。
区切りがいいということで、決算は古くから1年単位で行われてきました。ただし、近年は経済や企業の状況も短期間で大幅に変動するため、半年や3か月ごと(四半期)の報告も行われています。
そして「決算」がこれまでの結果をまとめたものなら、これからの予定や目標を数値化したもの、それが「予算」ということになります。
- ▼連載「会計士が営業に教えたい「予算」の話」