「適材など転がっているものではない」
「人を活かし、育てる」には、どうすればいいのか。
筆者は、阪急・東宝グループの創始者、小林一三の考えが参考になると考えている。
適材を適所に置くということは口では簡単に言えるけれど、そんなに適材など転がっているものではない。責任を持たせて、どしどし仕事をさせることが一番だ。
無理に尻ぺたを叩いて追い使う事だ。使い回すうちには、大概の若い人には何でも出来るようになるものと信じて、その主義を実行している。――略――どうも彼はあそこが悪いとか、彼には到底難しいとかいう風に考え出すと、いかなる人にでも欠点があるのであるから、ちょっと責任を持たせにくくなってくる。
活かして人を使うとするならば、その人に責任を自覚させて重く用いるという事が、一番間違いない方法だと信じている
小林は、阪急電鉄(創業時は、箕面電気軌道)を手始めに次々と会社を起こしたが、そのほとんどの後継社長に自ら育てた人材を登用した。後継者がいなくて苦労したことはないという。
そんな小林の人材活用論だけに、大いに参考になると思うが、これをそのまま現在に応用することには無理がある。
明治6年生まれの小林が活躍したのは大正初期から終戦直後までだ。小林の時代には、重い責任を自覚させて重用すれば、意気に感じて期待に応えてくれる人材が多々いたに違いない。
しかし、いまは違う。うまく育ってくれればいいが、ほとんどは、期待の重みに耐えかねてつぶれるか、重用されたことで天狗になってしまうかのどちらかだろう。
「任せて、見守り、目標を達成すればほめる」
では、どうすればいいのか。重用するばかりでは駄目で、見守ることが大事になってくる。
サントリーのモットーは、「やってみなはれ」だが、中興の祖・佐治敬三は、幹部社員には、「やらせて、見てなはれ」と言っていたと聞く。
「見守ってあげないと育たないようなひ弱な人材では困る」との声が聞こえてきそうだが、それが現実だと理解してほしい。
いまは、学校でも家庭でも、きつく叱られた経験がなく、責任を問われることのない生活を送ってきた人間が圧倒的に多い。いくらでも新しい人材を採用できる企業ならいざ知らず、いまいる人間をなんとか育てたいと思うのなら、任せて見守ることを厭わないことだ。
最後に、元日本IBM社長、北城恪太郎の次の言葉も紹介しておこう。
「人材育成の第一歩は『権限移譲』…ベテラン社員には大きな権限を与え、新入社員には細かい指示を出しつつ小さな権限を与える。委譲してウォッチして必要に応じて助言を与え、目標を達成すればほめる」
小林、佐治、北城――日本を代表する名経営者の人材育成論は、見事なまでに一致している。ところが現実は、部下に仕事を任せられない経営幹部が圧倒的に多い。
この問題はどうすればクリアできるのか…その話は次回に。
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