社員から直属の上司に退職願の提出があった場合、会社はどの時点をもって、それを受理したことになるのでしょうか。
ポイントは、退職願を受理した上司に「決裁権限」があるか否かです。退職願、退職届とも、いつの時点(日付)で会社が受理したのかを明確にする必要があります。
特に退職願の場合には、原則として、会社が承諾をするまでは撤回が可能です。そのため、退職願をいつ受理し、その申込みを会社が承諾したことが従業員にいつ伝わったのかは、退職願の撤回の可否に大きくかかわってきます。
そこで問題は、受理し承諾する会社とは、具体的には「誰なのか」ということになります。
直属の上司が退職願を受理し、ある種の独断でその場で「君の退職願を受理する」と意思表示しても、法的には「まだ会社は退職願を受理していない」となる可能性があります。
では、会社の「誰」が承諾することが必要なのかについて考えてみましょう。
退職願の受理に関して、白頭学院事件(平・9・8・29大阪地裁判決)という判例があります。この判例では、退職願を直属の上司に提出した後、その退職願に対して、人事部の決済が下りていない間は撤回ができると判断しています。
その他の多くの判例でも、「退職の決済権限のある者」が退職届について稟議・決済を下し、本人にその旨を通知した時点で「会社は退職願(届)を受理した」と判断されています。
上司が受理した退職願(届)の撤回をめぐり争いとなったときは、文書を受理した担当者(この場合は上司)に「退職の決済権限があるのかどうか」が問題となります。それまでにも、受理した担当者が退職について決済を下した事実があったか、そこらあたりが判断のポイントとなってくるでしょう。
一般的には
・大企業だと解雇権のある人事部長など
が退職の決済権限がある人物と考えてよいでしょう。
ただし、大企業でも中小企業でも、その他のたとえば直属の上司に従業員の解雇権があれば、「退職の決済権限がある」と判断していいでしょう。
※本記事は、月刊「企業実務」(2014年2月号)に掲載した「退職願(届)の受理・撤回等に関する労務問題Q&A」を企業実務オンライン用に再構成したものです。