他人事じゃない! 1日に300人が逮捕されているという現実
出勤途中のビジネスマンが、電車でいきなり痴漢に間違われたら…。
「ちゃんと話せば誤解は解ける」と思い、駅員に促されるまま駅舎に行ったところ、全く身に覚えがないのに信じてもらえず、そこへ警官がやってきたら…。
そのまま警察署に連れて行かれ、逮捕されてしまったら…。
たいていの方は、そのとたんに頭の中が真っ白になってしまうに違いありません。
「逮捕」
テレビドラマならともかく、この言葉を身近に感じる方はまずいないでしょう。
しかし、平成27年度の司法統計によれば、全国のすべての犯罪における逮捕件数は、逮捕状による逮捕だけでも10万880件にも上ります。現行犯逮捕の件数も含めれば、1日あたり約300人前後の人が逮捕されている計算になります。
これは決して無視できる数字ではなく、ビジネスマンにとっても「逮捕」は他人事ではないのです。
気になる疑問①
逮捕されたら、どんな手続きが待ち受けている?
大まかな流れとしては、
- ①逮捕
-
逮捕された時、犯罪事実の主要な部分(要旨)と弁護人を選任できる権利を告げられることになっています。そして、疑われている犯罪事実に対して、言い分を述べる機会が与えられるのですが、この時点から警察官の取調べは始まっています。
警察官は、被害の声を上げた方の言い分を聞いて逮捕しているのですから、疑いの眼差しは強く、徹底して追及してきます。検挙した被疑者から自白を引き出し調書にまとめようとするのです。
「自分はやっていない!」と弁解したいところですが、これは警察官の追及の手がかりとなってしまい、逆効果です。言いたいことをぐっと我慢して「すぐに弁護士を呼んでください」と要求して、あとは黙ることが一番です。
黙秘権は、国の最高法規である憲法に由来する権利ですので、黙秘することを何らためらう必要はありません。なお、知り合いの弁護士がいなくても、弁護士会に要請して弁護士を派遣させる制度(当番弁護士)があります。初回は無料ですので、遠慮なくアドバイスをもらいましょう。契約をすれば、そのまま弁護を依頼することもできます。
- ②送検
-
その後、検察官のもとへ連れて行かれ、事件に関する簡単な取調べが行われます。検察官が必要と判断すれば、裁判所に対して身体拘束(勾留)を請求します。
- ③勾留
- ④起訴・不起訴の決定
- ⑤裁判
勾留するかどうかは、裁判官が事件記録を調査し、本人に質問して決めます。基本は10日間ですが、それまでに捜査が終わらなければ、さらに最大10日間延長されることになります。
黙秘または否認をしているケースでは、残念ながら、検察官に勾留を請求され、それが認められる可能性は比較的に高いです。
認めたほうがすぐに出られるという話もありますが、実際にはすぐに釈放されるわけではありません。
もっとも、痴漢事件に限っていうならば、裁判官が勾留を認めない件数が増えてきているので、諦めないことが重要です。
そして、検察官は、勾留期間内に、裁判にかけるかどうか(起訴・不起訴)を決めることになります。不起訴となれば釈放されますが、起訴となれば保釈請求をしない限り、勾留が続くことになります。
起訴後、通常であれば、2か月以内に裁判が開かれることになります。
気になる疑問②
逮捕されると、どんな生活を強いられる?
通常であれば、警察署内の留置場に入ることになります。留置場は、2〜3人で1部屋が多いですが、事情により個室に移されることもあります。
起訴後も身体拘束が続く場合には、拘置所に移送されます。
身体拘束中は、多くの捜査に引き出されます。警察官・検察官による取調べ、引き当たり捜査(主に、事件の関係各所へ連れ出されて状況説明をすること)、事件状況の再現実験、DNA型の採取など様々です。
また、起床、消灯、食事の時間などきっちり決められています。特に、消灯が21時となっているのが通常なので、生活リズムが合わず体調を崩される方もいます。
気になる疑問③
家族とはどうすれば連絡が取れる?
残念ながら、少なくとも逮捕中は家族であっても直接、連絡を取ることはできません。証拠の隠滅、口裏合わせをするおそれがあると判断されるからです。
ただし、警察官が家族に連絡を入れてくれることはあります。いち早く伝えたいところですが、携帯電話が証拠品として押収されていれば、肝心の連絡先が分かりません。
このような事態に備えて、ご家族の中で誰か1人の連絡先(電話番号)を記憶しておくほうがベターです。これは、弁護を依頼する場面でも同じで、弁護士にとっても、ご家族の連絡先を覚えている方のほうがスムーズに動けます。
気になる疑問④
逮捕されると、警察から会社へ連絡されてしまうの?
会社に必ず連絡がいくというわけではありません。
ただ、会社と事件を結びつけるものが「あり」と捜査機関が判断すれば、会社に連絡されて捜査が及ぶことはあります。たとえば、「会社のパソコンに(余罪の)盗撮画像がある」とか「事件前後で同僚と飲んでいた」などといったケースが考えられます。
身体拘束が長引けばそれだけ欠勤が続くので、逮捕の事実が会社に伝わるリスクは高くなります。また、性犯罪に対する社会の目は厳しさを増しておりますので、報道されることもあり得ます。
このような事情は、会社には話せないことですので、会社への対応について具体的にどのような方策を採るかは弁護士と相談するほうがいいかと思われます。