他社の有名な商標を自社サイト検索のキーワード等に利用することに問題はないですか?
- 質問者
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私は、小さいながらも個人で会社を立ち上げ、ホームページも運営しています。最近、自社サイトへのアクセス数が減っているようなので、WEB集客に詳しい知人に相談したところ、
「ライバル会社のサイトを検索した検索結果に、自社サイトが表示されるように工夫してみたらどうか」
とアドバイスを受けました。具体的には、
「ライバル会社の有名な商標をキーワードに利用して検索連動型広告を使ってみたら?」とか、
「メタタグを工夫してみたら?」
とか言われたのですが、法的に問題はないのでしょうか? 商標についてよく知らないので、教えてください。 - 弁護士
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「商標」とは、自分の商品・サービスを他人の商品・サービスとを識別するために、事業者が商品・サービスについて使用するマークやネーミング(標章)です。
私達は、企業のマークや商品・サービスのネーミングを1つの目安として商品やサービスを選ぶ(識別する)わけですから、商標の機能として、・識別機能
・出所表示機能があるといわれています。
商標は、登録がされると、権利者は、指定した商品・サービスについて商標を独占的に使用できるようになります。
登録された商標を「権利者に無断で使用することは許されない」ということですね。
- 質問者
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そうすると、他社の商標をキーワードやメタタグに使うためには権利者の許可が必要になってくるのでしょうか? そもそも商標の「使用」とは、どういうことを指すのでしょう。
- 弁護士
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「使用」については,商標法2条3項において,10の行為が定められています。インターネット上の広告については、同項8号において次のとおり規定されています。
8 商品若しくは役務に関する広告(中略)を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
- 質問者
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広告を内容とする情報に標章を付して提供する行為ですか…。つまり、「広告自体に商標を使用する」ということですか。
- 弁護士
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基本的にはそういうことですね。
それでは、まず、ライバル会社の商標を検索連動型広告のキーワードに利用する場合についてみていきましょう。
そもそも、「検索連動型広告」ってどのようなものなのですか?
- 弁護士
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検索連動型広告とは、ユーザーが検索エンジンで特定のキーワードを使って検索した際に、検索結果画面に、検索結果とは別枠で、そのキーワードに連動して表示される広告のことです。
検索連動型広告の利用者は、自分の好きなキーワードを購入して登録できるので、自社の商品・サービスと関連する商品・サービスの検索に使われる可能性の高いキーワードを購入することで、関連商品・サービスに関心のあるユーザーを自社サイトへ誘導することができます。
- 質問者
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教えていただいた使用の定義からすると、他社の商標をキーワードとして利用することは、商標の使用にはあたらないと考えていいですか…?
キーワードとして利用するだけであれば、「商標の使用にあたらない」と考えてよいでしょう。
- 弁護士
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検索連動型広告の表示は、他社の商標をキーワードに設定しても、広告自体に商標が使用されない限り、ユーザーも、その広告が「商標権者であるライバル会社によって提供されている!」と勘違いする可能性は低いですし、実質的にみても、商標の機能は害されていないといえるでしょう。
「メタタグ」に他社の商標を書き込む場合はどうですか?
- 質問者
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検索連動型広告についてはよくわかりました。では、メタタグについてはどのような問題があるのでしょうか。
- 弁護士
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メタタグとは、HTMLで記述されたウェブページのうち、そのウェブページ自体についての情報を記載した部分のことで、検索エンジンにページの概要を伝える役割を果たしています。
メタタグには、「記述メタタグ」や「キーワードメタタグ」があります。
記述メタタグは、その記載内容が、検索エンジンによる検索結果ページに「ウェブページの要約文」として表示されます。
キーワードメタタグは、その記載内容をウェブページのキーワードとして、検索エンジンに伝えるものです。 - 質問者
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ライバル会社の商標をメタタグとして記述することが「広告(中略)を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」にあたるかが問題となるわけですね。
- 弁護士
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そのとおりです。記述メタタグにライバル会社の商標を記載する場合、検索結果ページの要約文中にライバル会社の商標が表示されることになりますが、この〝要約文〟も商品・役務に関する広告ということができるので、
「広告(中略)を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」にあたる
ということになります。
実質的にみても、ライバル会社の商標が表示された要約文を見たユーザーは、そこからリンクされたページも商標権者であるライバル会社のものだと勘違いする可能性が高いので、商標の機能を害するものといえます。
確かに勘違いしてしまいそうです。記述メタタグに、権利者に無断で商標を記載するのは問題ですね。
- 質問者
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それでは、キーワードメタタグの場合はどうでしょうか? キーワードは普通にしていたら目にすることはありませんし、使用にはあたらないということになりそうですが…。
- 弁護士
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たしかに通常の使い方をする限り、キーワードメタタグを目にすることはないのですが、ウェブページのソースを表示すれば見ることは可能ではあります。
ですから、目に見えているかどうかだけを決め手にするのは難しいので、ここでは、「商標の機能が害されているかどうか」を検討してみるのが有用です。特定の商標をキーワードに検索をしたユーザーは、検索結果をどのように受け止めるでしょうか?
- 質問者
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そうですね…。検索結果のページには、キーワードやキーワードとして打ち込んだ商標の権利者とは必ずしも関連性のないウェブサイトもたくさん表示されるのが普通ですから、検索結果に表示されたウェブサイトのすべてを「キーワードとして打ち込んだ商標の権利者が設置したものだ」と受け止めることは、あまりないと思います。
- 弁護士
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おっしゃるとおりだと思います。
そうすると、例外的な場合を除けば、ユーザーが、商標権者が設置したと誤認する可能性は低く、商標の機能を害さないので、商標の使用にはあたらない、と考えてよいと思います。商標権侵害にあたるかどうかの判断で、条文の形式的なあてはめだけではよくわからないという場合は、商標の機能(識別機能、出所表示機能)の観点から検討してみるとよいと思います。
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