他人に対するネガティブな感想をネットに書き込むのは違法ですか?
- 質問者
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ついつい飲食店や人に対する不満やネガティブな噂をネットに書き込んでしまうことがあります。ネット上の発言で罰せられることはあるのでしょうか。
- 弁護士
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ネットを用いて活動をすると、口をついた思わぬ言葉によって、誰でも「加害者」になる可能性があります。
法的観点から気を付けるべき点は様々にあります。ネット上の発言に対しては、例えば、民事上の責任として、不法行為に基づく損害賠償請求がなされる可能性もあります。
また、勤務時間外のSNSでの発言について、就業規則等に基づく懲戒処分がなされる例もあります。今回は、刑事上の責任が発生し得るものについて、代表的なものをピックアップして解説したいと思います。
- 弁護士
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本連載のこれまでの2回でも触れてきたところですが、著作権侵害については、その侵害のしやすさやルールの複雑さから、特に注意が必要になります。
著作権侵害については、侵害行為の差止請求や損害賠償請求をなされ得るイメージをお持ちの方は多いですが、リスクはこのような民事上の責任にとどまりません。著作権法には、著作権の侵害に対して、懲役刑・罰金刑といった刑事罰が定められています。
- 弁護士
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他人の社会的評価を傷つけるような表現をブログやSNS等に書きますと、名誉棄損罪が成立する可能性があります。
名誉棄損罪は、刑法に定められている犯罪です。条文には、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する
と定められています。
「公然と」というのは、不特定または多数の人がその事実を認識できる状態を指します。誰でも閲覧できるブログやSNSへの書き込みは、この「公然と」という要件を満たすことになります。
- 質問者
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一定の人しか閲覧できないように設定している場合はどうですか?
- 弁護士
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少数の人に事実を示した場合であっても、そこから不特定または多数の人に事実が伝わるおそれがある場合には、「公然と」の要件を満たすと考えられています。
ですので、ブログやSNSの公開範囲を限定しているからといって、要件を満たさないものとはいえません。 - 弁護士
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名誉棄損については、よく「嘘はついていない。真実だ」という反論を耳にします。しかし、基本的には、書き込まれた内容が真実であるとしても、名誉毀損罪は成立します。
一定の要件を満たす場合には処罰がされないことになっていますが、そうでない限りは、示した事実が真実であっても処罰の対象になります。処罰の例外となる要件とは、問題とされる表現が、
① 公共の利害に関する事実についての表現であること
② 表現の目的が専ら公益を図ることにあったこと
③ 表現の前提となる事実のうち重要な部分が真実であることの証明がなされたことの3つです(③については、真実であることの証明がない場合でも、確実な資料、根拠に照らして「相当な理由」があり、その事実を真実であると誤信した場合には、名誉毀損罪は成立しないものとされています)。
いずれにせよ、たとえ公共の利害に関する事実であっても、不確かな噂を信じて書き込みをするのは、非常にリスクのある行為だといえます。
- 質問者
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相手が誰であれ、社会的評価を傷つけるような書き込みをすると名誉毀損罪に問われる可能性がある、ということですね。
- 弁護士
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そのほかには、刑法上、侮辱罪が以下のように定められています。
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する
名誉棄損罪は事実を示すことが要件となっていますが、事実を示さない場合にも、公然と他人の社会的評価を傷つけるような発言をすると、侮辱罪が成立し得るということです。
- 弁護士
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名誉毀損罪や侮辱罪、著作権侵害は、親告罪とされています。被害者が告訴をしなければ、刑に処せられることはありません。このため、違法な書き込みでも放置されているものはあります。
しかし、そのような書き込みが放置されているのは、あくまでも被害者がその時点でまだ告訴をしていないからにすぎません。ネット上で著作権侵害等が放置されているのを見て、「自分も大丈夫だろう」という認識をもたないように注意しましょう。
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- 第2回 ブログで他人の著作物を引用したり、「まとめサイト」を作ることに問題はない?
- 第1回 著作権とは何か? ネットで情報を発信するとき、どんな注意が必要か?