領収書の管理が悪い社長に法人カードを持たせたら…
A社は創業して10年、順調に事業を拡大しています。創業者であるB社長の口癖は、
「寝る時間以外は、すべてを会社のために使っている」
というものです。
そんな精力的な社長ですが、経理処理を巡っていつも経理担当者を悩ませています。取引先の接待、贈答など多額の交際費を使っていますが、領収書の管理が悪く、何に使ったのか内容の把握ができないことがあるのです。
そのことを社長に指摘すると、
「私は会社のために行動しているので、個人的な支出は一切ない」
といって、一向に改善してくれません。
ある日、A社の経理担当者は、他社でやはり経理を担当している大学時代の友人と話す機会がありました。
するとその友人の会社では、社長に法人カードを持たせているといいます。交通費、交際費等々については、すべてカード決済をするようにお願いしているといい、法人カードを使うようになってから、使途不明な経費が減ったそうです。
ちょうどその頃、C社に税務調査が入ったのですが、何の問題もなく、少額の消費税の計算違いを指摘され、その修正をしただけで終了したといいます。
そこで、A社においても法人カードを導入してB社長に持ってもらうことにしました。
それからはB社長も交際費などの支払いには法人カードを使用し、支払先と使用額が不明で困ることはなくなりました。これで、大丈夫だと経理担当者も安心したのですが…。
後日、A社に税務調査が入り、B社長の交際費が問題になりました。
「他社が認められたから、うちも大丈夫」とは限らない
C社では交際費が問題にならなかったのに、A社ではなぜ問題になったのでしょうか?
原因は、社長が使った交際費の額にありました。C社の社長が使った交際費は年間300万円、A社では年間1,000万円、3年間で3,000万円というものでした。
A社の税務調査を担当した調査官は、飲食などに使った交際費の額が多いので、B社長が個人的に使ったものが含まれていると考えたのです。特定のバーやクラブなどを頻繁に利用していたことも、そう思われた一因のようです。
C社の税務調査では、事業内容などから総合的に判断して「年間300万円くらいの交際費を使うことは普通である」と判断されたのでしょう。だから問題になりませんでした。ところが、A社では会社規模のわりに多額の交際費が支出されているので、調査官の判断が違ったのです。
A社の経理担当は、調査官に法人カードの明細を提示して説明しましたが、納得を得ることはできませんでした。
どうしてでしょうか。
会社の経費と認められるには、会社の業務遂行上必要と認められるものである必要があります。法人カードで決済しただけでは、支出したことは確認できますが、使途の確認ができず、業務との関連が明らかではありません。
法人税基本通達には次のような規定があります。
9-7-20 法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
私が顧問先の会社の方からよく聞くのは、「他の会社で認められているのなら、当社でも問題がないのでは?」という考え方です。
ですが、調査官は会社の規模、業種、売上、利益等々から総合的に判断します。他社で認められたということは、参考にはなりますが、絶対ではないのです。
事業に必要な支出であることを説明できないとダメ
税法において、当該支出と業務との関連性を合理的に立証する責任は、納税者側にあります。
領収書でわかるのは、日付と支払先、支出した内容、そして金額です。
特に交際費を多額に使う会社は、個人的な支出だと思われないように、取引先の誰と何のために食事等をするかを明確にする(申請書、報告書等で保存)ことが必要です。
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