「個人的な借り入れ」の形にしてリベートを支払ったら…
アベノミクス効果で大企業は好調ですが、中小企業にとっては厳しい状況が続いています。そんな中で、不動産業のA社は順調に業績を伸ばしています。
業績好調の理由は、創業者であるB社長の情報収集力にあります。B社長はロータリークラブ、ゴルフ倶楽部などに加入し、その付き合いの中から有力な情報を得ているのです。
取引先の接待や贈答などに多額の交際費を使っていますが、そのぶん売上も伸びているので問題はありません。また有力な情報には相応のリベートを支払っていますが、これも当然だと思っています。
最近A社が力を入れている地域に、相続がらみでまとまった広さの土地を売りたがっているCがいるとの情報が入りました。
この情報をくれたのは、昨年まで取引先の営業マンだったDです。Dは会社を退職した後、現在は家業のリフォーム会社を手伝っています。
Dによると、Cとは以前から懇意にしていて、土地をA社に売却するように薦めてくれるとのこと。ただし、土地の購入が成功したあかつきには、報酬が欲しいと言います。
じつはDには多額の借金がありました。そこで会社には内緒で、D個人にリベートを払って欲しいというのです。
B社長はDの申し出を快諾します。土地の取得代金の1%をリベートとしてDに払う約束をしました。
その後、Dの口添えもありA社はCから土地の取得をすることができました。土地の取得代金は10億円で、リベートは1%の1,000万円です。
するとDは、1,000万円もの収入を確定申告すると会社にわかってしまうし税金の負担も大きいので、A社から借り入れたことにしてほしいと言い出します。
B社長は、今後の情報提供も期待して、その条件を飲むことにしました。
「金銭消費貸借契約書」があっても借金とは認められない?
ところが、このリベートの支払いについて社内で問題になりました。
そこでB社長は会社としてリベートを支払うことはやめて、B個人がDに1,000万円を貸す形をとることにしました。
金銭消費貸借契約を結び、契約書を作成して、D名義の銀行口座に振り込みます。そして、別途、金銭消費貸借の返済免除の契約(これは秘密)をDとB社長の間で交わしました。
これで1,000万円のリベートを収入として申告しないで済むと、Dは喜んでいました。
ところが後日、A社に税務調査が入り、B社長のDに対する貸付が問題になります。督促なしの無利息(しかも長期間返済なし)なので、実質的な贈与にあたると指摘されたのです。
当然のように、B社長とDは金銭消費貸借契約書を示し、贈与ではないと主張したのですが、認められませんでした。
どうしてでしょうか?
税の基本原則に実質課税の原則(実質所得者課税の原則)があります。法人税法及び所得税法では、実質所得者課税について次のように規定されています。
法人税法
(実質所得者課税の原則)
第11条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
所得税法
(実質所得者課税の原則)
第12条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
今回の例でいうと、たしかに金銭消費貸借に基づいて1,000万円を振り込んでいますが、それは単に金銭貸借の「形」を取ったに過ぎません。実際には金銭消費貸借ではなく、リベートの支払いです。
税法では、「事実は何か」で課税の判断をします。
契約書の内容と事実が一致しないとダメ
税の原則は「実質課税」です。法形式と実質が違う時は、実質で判断されます。
契約書は自由に作れるので、事実と違う契約内容の書類を作成することも可能だからです。
- ▼連載「Taxマインドの磨き方」
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