租税は「財産権の侵害」にあたる!?
前回(マイナンバー制度導入で囁かれる“噂”は本当か?)で、「みなす」と「推定する」の違いを説明しました。
税務調査で税務署員に問題点を指摘された場合も、基本的には「みなす」ことはできません。あくまで、「推定する」のです。ですから、客観的な資料を提出して説明できれば、課税されることはありません。
冒頭でこのようなことを取り上げたのは、租税の基本原則である「租税法律主義」を理解してほしいからです。
日本国憲法は、第30条で納税の義務「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」を規定し、さらに第84条で「新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(租税法律主義)と規定しています。
租税というのは国家の礎ですが、財産権の侵害でもありますから、国の基本法である憲法において規定されているのです。
そのことが理解できれば、簡単にある事象をもって「みなす」ことはできないということがおわかりになるでしょう。
法律によらない課税はあり得ない!
それでは、「みなす」場合を具体例でみていきます。
夫Aの死亡によって、保険受取人の配偶者Bが取得した死亡保険金は、Bの固有財産になります。固有の財産ということは、遺産分割の対象ではありません。
それなのに、Aの相続税の計算においては、「相続により取得したもの」とみなされます。その根拠となるのは、相続税法第3条(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)に規定されているからです。
第3条
次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金又は損害保険契約の保険金を取得した場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分(以下、省略)
このように、相続税法第3条という法律に規定されているから、「みなす」ことができるのです。それほど、租税法律主義は厳格な規定なのです。
このことは、税務調査で不本意な指摘を受けたときに、反論するのに役立ちます。仮に法人税の調査であれば、「ご指摘の件は、法人税法の何条に該当しますか?」と確認することです。
憲法は、租税法律主義とともに、私たち国民に納税の義務を課しています。正しい納税が行われるためには、課税の公正、負担の公平が求められます。
それは、法律に基づいた正しい課税が行われることでもあるのです。
租税法律主義
税の基本原則は「租税法律主義」です。だから、法律によらない課税はありません。
税務調査で納得がいかないことを指摘された場合は、根拠となる法律の規定を確認します。
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