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会社を“オンリーワン企業”にする決算書の作り方 第6回

あなたの会社は固定費型?それとも変動費型? コスト構造から経営戦略の立て方が見える

[ 青山 恒夫<あおやま・つねお>(税理士、公認会計士)]

「管理会計」という言葉をまったく知らないという経営者は少ないかもしれません。しかし、「管理会計」を実際の経営に役立てている会社がどれだけあるでしょうか。例えば、「管理会計」を使って決算書の数字を組み直すと、あなたの会社が「オンリーワン企業」になるためのロードマップが見えてきます。

コスト構造から経営戦略の立て方が見える

企業を「固定費型」と「変動費型」に分類すると…

 製造業やサービス業といった業種別、あるいは従業員規模別や資本金別など、企業を何らかの観点から分類すると、その業種や規模ならではの特徴や傾向が見えてくることがあります。

 同じように管理会計では、会社を「固定費型企業」と「変動費型企業」に分類する手法を用いることがよくあります。そうすることで、その会社のビジネスモデルを管理会計の視点から分析でき、効果的な事業戦略の立て方が見えてくるからです。

 収益の柱となる事業が固定費型か変動費型かによって、その会社の強み・弱み、効果的な経営手法は大きく違ってきます。

■固定費型事業と変動費型事業の対比
  固定費型事業 変動費型事業
リスク・リターン ハイリスク・ハイリターン ローリスク・ローリターン
有効な事業戦略 顧客の獲得 原価、販管費の削減
値引き策の効果 原則としては有効 極めて危険
事業撤退の影響 損失が大きい 損失は小さい

 それでは、固定費型企業と変動費型企業それぞれの特徴を見ていきましょう。

顧客ニーズの変化によるリスクが大きい「固定費型企業」

 固定費型企業とは設備投資を多額に要する設備産業に属する企業で、具体的には電気、ガス産業のような製造業、あるいはテーマパークやホテル事業のようなサービス業などが該当します。

 固定費型企業の特徴は、次のようになります。

① (初期の)設備投資が多額に必要となる
② 変動費(率)は極めて低い
③ 管理ポイントは顧客増加
④ 値引きも有効な顧客獲得
① (初期の)設備投資が多額に必要となる

 多額の設備投資資金が会社設立段階より必要となるため、顧客を十分に確保できる見通しがないと利益が稼げません。逆にいうと、多額の資金負担があるために、たとえ儲かるビジネスとわかっていても、新規参入者はそれほど多くならないことになります。

② 変動費(率)は極めて低い

 典型的な固定費型企業の例として、航空会社やホテル業などがあります。

 たとえば、お客が1回飛行機に搭乗したことによって、あるいは1泊ホテルに宿泊したことによって増加するコスト(変動費)はどれくらいになるでしょうか。極めて少ない額になるのではないかと考えられますよね。

 そのため、顧客が1人増えて売上が増加したとき、その売上高の相当分が利益(限界利益)となります。ちなみに限界利益は、「製品を追加的に1個販売したときに得られる利益」です(詳しくは営業部長の判断はなぜ間違うのか?本当に「儲かる商品」「儲かる顧客」の見極め方)。

 具体的には、顧客が1人増えて売上高が2万円増えたら、利益は1万8,000円増えるようなイメージでしょうか。

 (売上高)2万円=(利益)1万8,000円+(変動費コスト)2,000円

 ただ、逆もあり、です。つまり、顧客が1人減少して1人分の売上高が減少したとき、その減少分の相当額の利益が減少することになります。

 先の例でいえば、お客様が1人減少して売上高が2万円減ったら、利益は1万8,000円減るようなイメージです。

 要するにハイリスク・ハイリターンが固定費型事業ということです。

 そのために、電気ガス事業のような固定費型事業で国民のインフラを担当する事業は従前より公益企業として独占的地位を与えられているというわけです(もっとも現在は電力自由化に向かいつつあります)。

③ 管理ポイントは顧客増加

 これまで述べてきましたように、固定費型企業は顧客を増やせば利益が増える割合が相当に高いことが特徴です。変動費率は少ないため、経営管理のポイントはコスト削減よりも顧客増加のために、いかにマーケティング施策を効果的に行うかになります。

 固定費型企業には削減しやすいコスト(変動費)がもともと少ないですし、固定費というのは一定額が継続的に発生するものであり、設備なり社員数を減らさない限り、削減できないコストだからです。

④ 値引きも有効な顧客獲得法

 顧客が増えない、あるいは競合企業との競争が激化してきたというときに、値引きを行うことがあります。

 固定費型企業の場合、値引きを行うことは「とりあえず」は有効な対策といえます。

 つまり、先の例でいえば顧客が1人増えたとき、追加で生じる変動費コストは2,000円なので、販売単価を2万円から20%値引きして1万6,000円にしても、まだ利益が1万4,000円出るからです。

・販売単価2万円→1万6,000円(20%値引き)にした場合
(売上高)1万6,000円=(利益)1万4,000円+(変動費コスト)2,000円

 ただし、値引き戦略が有効だとわかると競合企業も値引きを行ってくることは容易に予測できます。そうなると泥沼の値引き競争に陥り、固定費負担もできず、共倒れになる危険性も生じてきます。

 「とりあえず」は有効な対策、というのはそのためです。

安易な値下げ販売は命取りになる「変動費型企業」

 変動費型企業とは、固定費がさほどかからず、その代わりに変動費(率)が高い企業のことです。基本的には小売りや卸の企業が該当します。

 ただし、現代の小売り(家電量販店、スーパーなど)は巨大化し、装置産業化しているのは周知の通りです。

 変動費型企業の特徴は次の通りです。

① 初期コストがあまりかからない
② あまり儲からない
③ 値下げは危険
① 初期コストがあまりかからない

 初期投資として設備等があまり必要とされませんので、資金負担も軽く、始めようと思えばすぐにでも始められます。ただしその反面、儲かる事業だと広く知れ渡ると新たな参入者が大きく増加し、同業者間の競争が激化しやすいともいえます。

② あまり儲からない

 変動費率が高いということは、販売単価と仕入単価にあまり差がないということです。

 顧客が1人増えて売上高が2万円増えても、仕入原価が1万8,000円増えるため、利益は2,000円しか増えないというようなイメージです。

(売上高)2万円=(利益)2,000円+(変動費コスト)1万8,000円

 決算書で見ると、損益計算書の粗利益率が低いというのが変動費型企業の特徴です。

 逆に考えると、顧客が1人減少して売上高が2万円減少しても、仕入原価も1万8,000円減少するため、利益の減少は2,000円ですみます。

 要するに、変動費型企業はローリスク・ローリターンといえます。

③ 値下げは危険

 変動費型企業のビジネスモデルは、仕入原価1万8,000円の商品を2万円で販売しているようなイメージです。

 そんな会社が、売上が伸び悩んでいるかといって10%の値引きをしたらどうなるでしょうか。結果は、すぐにおわかりになると思いますが、利益は0円になります。

 それだけではすみません。この場合の利益は「粗利益」のことですから、値引きを行うための準備等や販管費が増えることを考慮すれば、最終利益はすぐに赤字になってしまいます。

 変動費型企業にとって、値引きは極めて危険な施策であるということがおわかりいただけると思います。

 いかがですか。コスト構造から、固定費型企業と変動費型企業に分類してみると、会社のビジネスモデルの特徴や管理ポイントが明確になることを実感していただけたでしょうか。

 管理会計を使って、あなたの会社が「固定費型」と「変動費型」のどちらに近いかを知ることで、経営管理のポイントを見直す手がかりになれば幸いです。

▼連載「会社を“オンリーワン企業”にする決算書の作り方」
著者 : 青山 恒夫<あおやま・つねお>(税理士、公認会計士) 横浜国立大学経営学部会計学科卒業後、中央監査法人に入所。その後独立し、青山公認会計士事務所を設立。会計士として、監査法人時代には株式上場支援を、独立後は中小企業の税務顧問としてさまざまな課題解決を支援。会計(財務・管理)・税務セミナーの講師としても活躍している。
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