会社が評価しなければ、上司は部下を育てない
上司が部下に仕事を任せられないのは、本人にだけ問題があるわけではない。「アウトプット重視の評価制度」も大きな阻害要因になっている。
個人のアウトプットが評価基準になれば、どういう現象が起こるのか。10年以上にわたって、毎年日本のサラリーマン1,000人を調査している高橋伸夫東京大学教授は、
「成果主義なら、俺は若い奴に何も教えない」
という声を聞いたという。
それはそうだろう。部下に仕事を教えた結果、部下のほうの成績が上司よりもよかったらどうなるのか。
教えたほうの自分は評価されず、部下ばかりが評価されて、出世されたら、いい気持ちではいられない。
では、どうすればいいのか。
いうまでもなく、部下に仕事を任せ、育てることのできる上司を高く評価する制度にすればいいだけのこと。
口では、部下に仕事を任せろ、部下を育成しろ、といいながら、評価制度が相変わらず個人のアウトプット中心では、「自分でやったほうがいい」と、なってしまう。
ビジネスマンの行動様式は、評価によって決まる、といってもいい。「人を活かせ、育てろ」といいながら、個人のアウトプットばかりを評価の対象にするから、体質が変わらないのだ。
部下に多くを求めすぎてはダメ
ほかにも、仕事を任せられない理由がある。それは、連載第4回(仕事を任せれば、部下は育つか?)で紹介した小林一三の言葉にあるように、「彼はあそこが悪いとか、彼には到底難しいとか……」いって、欠点にばかり目を向けてしまうからだ。
人間誰しも長所、短所があるが、付き合うほどに短所が目に付くようになってくる。結果、小林が指摘するように、「あの人物にはこういう欠点があるから任せられない」となってしまうのではないだろうか。
『論語』の中に参考になる話が紹介されている。孔子が理想とした、周の周公は、自分の息子が魯の君主として赴任する前に、
(人を使うときには)備わるを一人に求むることなかれ(1人に十分なことを求めてはいけない)
と、教えたと書かれているが、まさに、小林のいわんとするところと同じではないか。
この周公の教えは、中国の歴史の中で、希代の明君として知られる太宗(唐の二代皇帝)に宰相として仕えた房玄齢にも受け継がれている。
房玄齢は、太宗の、「宰相の仕事は、広く賢人を求めて、才能に随って任務を授けるできである」との指示を受けて、在野の人材を見出すことに熱心だったが、周公の教え通りに、「人を挙げ、用いるに際しては、欲張って才能の完璧さを求めることはしなかった」(『資治通鑑』より)という。
太宗の治めた時代は「貞観の治」と呼ばれ、中国の歴史の中で、最もうまく統治されていたとの評価が高いが、それを可能にしたのが、房玄齢が見出し、登用した豊富な人材だと考えれば間違いないだろう。
では、なぜ、豊富な人材が太宗のもとには集まったのか。
それは、ひとえに、「備わるを1人に求めなかった」結果なのだ。
ドラッカーの教え子のひとりだったウィリアム・A・コーンは、その著書『ドラッカー先生のリーダーシップ論』(武田ランダムハウスジャパン)の中に、
先生の(人材配置に決定に際しての)最大の原則は、仕事に必要なひとつの強みをもつ人を任用し、その人の弱さに目をつぶること
だと書いている。まさに、中国の歴史の教えそのものではないか。
- ▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
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- 第15回 上司次第で部下は変わる! 善くも悪くも…
- 第14回 長時間労働させるより部下には〝知恵〟を出させよ
- 第13回 上司は部下に何を学ばせるべきか
- 第12回 デキる上司は失敗に学び、部下の言葉にも耳を傾ける
- 第11回 社員が「自ら考え、知恵を出し、行動する」風土をつくれ
- 第10回 社員が個人プレーに走る組織は「評価基準」に問題あり!
- 第9回 デキる社員は組織と調和し、デキない社員は雷同する
- 第8回 「1+1>2」のチーム力で限界を打ち破れ
- 第7回 権力に溺れたリーダーは、部下も会社も潰してしまう
- 第6回 上司は部下を育てないのか、育てられないのか?
- 第5回 「俺に任せとけ」はよい上司か?
- 第4回 仕事を任せれば、部下は育つか?
- 第3回 部下がやる気スイッチを入れるとき
- 第2回 どこが問題? 会社の人事がダメ上司を作る
- 第1回 ダメな上司が部下の“やる気”を殺いでいる!